北斎諸国名橋奇覧(一):足利行道山くものかけはし、飛越の境つりはし

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「諸国名橋奇覧」は、「富岳三十六景」と「諸国滝廻り」の成功に気をよくした北斎が、同じ版元の西村屋から出版したシリーズで、計11枚が伝わっている。横大判錦絵で、ほぼB四版の大きさである。

奇覧と言うにふさわしく、奇想天外な構図の絵が売り物だ。また、三河の八橋や佐野の船橋のように、歌枕や伝説をそのまま絵にしたものもあり、必ずしも実景を描いたものばかりではない。

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(足利行道山くものかけはし)

足利行道山は、関東の高野山ともいわれる。行基が開山したあと、空海が道場を開いたことに基づいている。関東四霊場の一つにも数えられている。

浄因寺を中心としているが、断崖のてっぺんに設けられた清心亭という茶室がとりわけ有名である。この絵の中では、中央やや左手に清心亭が描かれ、右手の本堂との間に「天高橋」という橋が架けられている。まさに、雲の中に架っているように見えるところから、「くものかけはし」と呼ばれたわけであろう。


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(飛越の境つりはし)

飛騨と越中の境の山中にかかる橋をイメージして描いたと思われ、実景ではないと考えられる。

吊橋と言っても、両端を何かに固定しただけで、どう見ても吊橋のようには見えない。これでは、ちょっとしたはずみで落ちてしまいそうである。

だが、そんなことはお構いなし。この絵を見て、スリルを味わっていただければ、望外の楽しみなのです、そんな風に北斎が言っているのが聞えてくるような一枚である。








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