さまよえるシリア難民たち

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写真(APから)は、ハンガリーからオーストリアを目指して歩くシリア難民たちの群。彼らは、戦乱のシリアを逃れてヨーロッパへ向かおうとする人々だ。最終的な目的地は、豊かなドイツやスウェーデンだが、そこへたどりつく中継地としてハンガリーにやってきた。EU内の取り決めとして、域外からの移入者はまず入り口の国で手続きをする必要がある。そこでOKならばシェンゲン協定にもとづいて他の国へ自由に移動できる。そこで彼らはまずハンガリーへやってきたのだが、ハンガリー政府は手続きを進めようとしないばかりか、国外への異動も認めない。そこで進退きわまった難民の一部が、歩いてオーストリアへ向かったというわけだ。

同じ頃、トルコから船でギリシャを目指したシリア人の家族が難破し、三歳の男の子の遺体がトルコの海岸に打ち上げられるという悲劇が起きた。こうした事態に直面したEU諸国は、シリアからの難民受け入れに動きだし、いままでこれに消極的だったイギリスのキャメロン首相も、数千人規模での受け入れを表明した。

彼らがシリアを逃れるに至ったのは、アサド軍とISとの間の戦闘が激しくなって、生命の危険を感じるようになったためだ。

それ故、シリアの難民問題を抜本的に解決するためには、アサド軍とISとの戦闘を中心にしたシリアの政治状況を改めねばならない。それが改まらない限りは、今後も難民は増え続けるばかりだ。

ところが、シリアの情勢が好転する見込みは全く立っていない。どの国も、戦闘の当事者であるISとは何らのパイプも持たないし、またアサド政権については、ロシアが露骨に支援しているほか、EU諸国も影響力を及ぼせない状況となっている。つまり、ことシリアに関しては、無法状態が定着しているというわけだ。そのことで一番困るのはシリア国民だ。

今のような状況が生まれるきっかけを作ったのはアメリカのブッシュ政権によるイラク攻撃であるとは、広く共有された認識だ。ISはこの攻撃の落とし児として生まれたものだ。だからアメリカは、シリアの情勢に大きな責任を持っており、その意味では、このような難民について何らかの積極的な対策を取る責任があると言える。ところがそのアメリカは、まるで他人事のように眺めるばかりで、難民の受け入れをEU諸国に押し付けている。

そのEU諸国にしても、これまでアサド政権に対しては甘い顔をしてきた。その結果アサドを大胆にさせ、内戦を激化させたという見方もできる。その意味では、EUは自分のした行為の尻拭いを迫られているといえないこともない。








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