娘日時計(一):歌麿の美人画

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(娘日時計 辰ノ刻 大判錦絵)

娘日時計シリーズは、日中の時刻を区切って、その時々の娘たちの生態を描いたもの。取り上げられた日中の時刻とは、辰の刻(午前八時)、巳の刻(午前十時)、午の刻(正午)、未の刻(午後二時)、申の刻(午後四時)で、それぞれの時刻ごとに二人の娘を配している。

浮世絵としては珍しく、顔の輪郭線を入れずに、白抜きと空塗りをもちいて輪郭を浮かび上がらせる手法をとった。この手法は、西洋絵画では普通の技法であるが、大和絵以来の日本絵画には珍しいもので、それを版画の中にとりいれたのであるから、非常に斬新に映ったに違いない。もっとも、世の中に迎えられたかは難しいところで、これ以降、この手法が見られないのは、人気のなさを物語っているのかもしれない。

辰の刻と題したこの絵は、起きたばかりの女の表情を描いたもの。ひとりが爪楊枝を口に加え、もう一人はしゃがみこんで朝顔の鉢を持っている。おそらく起き掛けの女たち(遊女だろう)が、朝顔を話題にして朝の挨拶をしているところなのだろう。

このシリーズの絵すべてに共通することとして、背景は黄色つぶしの一色である。輪郭線がないので、顔の表情がいっそうふっくらとして見える。

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(娘日時計 巳ノ刻)

これは時刻からして、身だしなみを整えている娘たちを描いたのであろう。座っている娘のほうは、鏡を手に持って、みづくろいの良し悪しを確かめている。表情からして、できばえに満足しているようだ。

立っているほうの娘は、相手の美貌に見入るような表情をしている。彼女の美しさに圧倒されているように、複雑なしぐさをしている。半分嫉妬しているのかもしれない。

この絵は、顔の輪郭だけではなく、鼻の輪郭も描かれていない。空摺りでその部分を高くしているのだが、この写真からはその辺は伝わってこない。







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