21世紀の十字軍:欧米のシリア爆撃

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欧米の主要国が揃い踏みしてシリアの爆撃に血眼を上げている。名目はISを地上から消滅させることだ。ISはいまや世界全体にとっての深刻な危険となっている。いまのうちに殲滅しておかないと、世界は深刻に後悔する羽目になるだろう、と言う理屈だ。

欧米諸国の対IS政策にとって大きな転換点となったのは、パリにおける大量テロだ。このテロを受けて、オランドのフランス政府は一気にぶちきれた。オランドは、フランスはいまやISとの間で戦争状態(アン・ゲール)にあると宣言して、シリアにおけるISの拠点への爆撃を強化したほか、他の欧米諸国にも同調するよう働きかけた。オランドの呼びかけに応えて、今までシリアへの空爆に慎重だったイギリスやドイツも含めて、主要な欧米諸国が結束してシリア攻撃に参加している。その様子を、日本人である筆者のような者の目から見ると、どうもイスラムを相手にしたヨーロッパの十字軍が21世紀のいまになって復活したような印象を受ける。

というのも、今回の欧米諸国の結束ぶりは、ISとの戦いを名目にして、これまでアメリカや西欧諸国と対立していたロシアまで巻き込んでいるからだ。イスラム過激主義者と戦うために、小異を捨てて大義を成就させようというわけであろう。

とはいっても、各国のシリア攻撃の密度は一様ではないようだ。フランスは最も頭に来ていると見せかけているが、実際にやっていることを見ると、ニューヨークタイムズも分析していたと思うが、ほとんどが無人地帯を空爆している。有人地帯の空爆は一般人の犠牲を伴う恐れがあるというので、どうも遠慮しているらしい。一方ロシアは、ISへの攻撃というよりも、反アサド勢力全般に向けて空爆を行っているらしい。アメリカはアメリカで、ドローンを飛ばしながら、ISへのピンポイント攻撃に力を入れているようだ。

こんな具合で、十字軍と言うには、各国のやり方がかなりバラバラという印象を受けなくもないが、ともあれ欧米諸国が一致団結してイスラム過激勢力の撲滅に立ちあがった意味は大きい。

欧米諸国は、この戦いを、欧米対イスラムという構図で見られるのを大変嫌っている。敵はイスラムではなく、その原理主義的なテロリスト集団であるISというわけである。しかし実際に空爆を受けているシリアの人々にしてみれば、どんな大義であろうと、自分たちが命の危険に日々さらされているということには違いはない。ISへの攻撃の巻き添えを食って、死んだり他国へ避難したりという目に逢う人が多い。そういう人々にとっては、欧米のIS攻撃は憎しみの対象でしかないだろう。そうした憎しみが新たなテロリストを生み出す、ということもわきまえる必要があろう。いずれにしても、憎しみを含めてISの危険をこの地上から永遠に取り除くなどというのは、出来ない相談というべきである。

ところで、欧米諸国はこの戦いを、自由や民主主義といった普遍的価値を守るための戦いだとも言っている。その普遍的な価値に比べれば、イスラムの教えは限定的なものだ、という驕りのような感じも伝わって来る。そこには自分たちけが正しいという、非対称的な現実認識が働いていると考えられる。






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