高倉健「あなたに褒められたくて」

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高倉健といえば、ヤクザ映画のヒーローだし、その他のジャンルの映画でも寡黙でこわもてするタイプの役者という印象が強く、一時期流行ったCMの文句「男は黙ってサッポロビール」を地で行く生き方をしているのかと思ったが、素顔の本人は意外とさばけて、話好きなのだそうだ。この本(「あなたに褒められたくて」)を読むと、そんな高倉の話好きな雰囲気が伝わって来るような気がする。

標題にある「あなた」とは母親のことだ。高倉は「母親に褒められたくて」いつも生きていたらしい。男の子が母親に褒められたいと思う気持は筆者にもわからないではないが、その気持ちを一生抱き続けるというのは、また別のことだ。高倉は、その気持ちを一生抱き続きていたらしいことが、この本から伝わって来る。

高倉が母親っ子だったことは、結構成長した後でも一緒に風呂に入っていたらしいことからもわかる。体じゅうを母親に洗ってもらいながら、母親のおっぱいが柔らかかったなどという皮膚感覚を、いい大人になっても覚えていられるのは、幸福というべきなのか、筆者にはよくわからない。筆者には、少なくとも記憶が保存されている範囲(幼稚園に通うようになって以降)で、母親と一緒に風呂に入った記憶がない(抱いてもらった記憶はあるが)。

その母親から、高倉はいい大人になっても、つまり役者として成功したあとでも、ただの息子として扱われた。だから高倉が銀幕の中で刺青をしている様子を見せると、あれはアカギレではないかと心配してもらったり、敵に背中を見せると、卑怯な真似はやめなさいと諭されたのだそうだ。母親は映画館の中で、銀幕の中の息子を見ながら、つい声に出してその気持ちをあらわすものだから、一緒に見ている高倉の姉妹たちは恥ずかしくてしょうがなかったのだという。

こんな調子でこの本は、銀幕の中の高倉からは想像つかないような、彼の饒舌なところがあらわれている。高倉の映画が好きな人は、一読してみるのもいいだろう。





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