GOP内の階級闘争

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米大統領選の共和党(GOP)の候補者選びが面白い様相を呈している。ドナルド・トランプが相変わらずトップを走り、それにクルーズやルービオが追い打ちをかけている状況だが、こうした候補者は、いままでのGOPの政治的な伝統からすれば、異端的と言ってよい。というのも、これまでのGOPの政治的なアジェンダは、減税、歳出カット、規制緩和、自由貿易を柱とした「小さな政府」路線だったわけだが、以上の候補者は、かならずしも小さな政府にこだわっていない。ある程度の社会保障の必要性を容認しているし、強いアメリカの実現のためには増税もあり、といったスタンスをとっているようである。

彼らのこうした行動の背景には、GOP支持層における変化があるようだ。それを指摘しているのは、影響力ある政治コメンテーターのデヴィッド・フラムで、彼はGOP内に階級闘争が起きているという表現で、この動きを説明している。それによれば、GOP支持層の30パーセントが富裕層への課税強化を支持する一方、社会保障費をカットすべきだとしているのは20パーセントに満たない。これは、ビジネスライクが伝統的のGOP支持層のみならず、小さな政府を叫び続けてきたティーパーティ支持層とも異なっている。その背景には、GOP支持層における貧困層の割合の高まりがあるという。なぜ貧困層がGOPに傾くのか、その理由は明らかではないが、とにかく今やそうした貧困層の意識を無視しては、GOPの中での幅広い支持は獲得できないということらしい。

こんな見解を聞くと、筆者などはあっけにとられてしまう。GOPが白人層を中心にした比較的富裕な人々の支持の上に成り立ってきたというのは、これまでの常識的な見方だった。それが揺らいでいるというのである。たしかに、トランプ始め、GOPのトップランナーたちの主張を聞いていると、伝統的なGOPとは非常に異なったニュアンスが伝わって来るので、GOPの中で大変な変化が起きているという感じは持っていた。そうした変化がなければ、ジェブ・ブッシュが苦戦して、トランプやクルーズが善戦している今の状況が説明できない。

もともと保守的だったGOPが、ティーパーティのゆさぶりで、保守を超えて右翼に傾いたというのはよく指摘されることだが、この右傾化の傾向は、今回のトップランナーたちも共有している。トランプは強硬な移民排斥を訴えているし、クルーズやルービオも経済ナショナリズムというべき主張をしている。面白いのは、クルーズもルービオもキューバからの移民の出だということだ。彼らの父祖たちは、カストロの革命を嫌ってアメリカにわたってきた旧キューバの支配層だ。その人々の息子たちが、こんどはアメリカで、経済ナショナリズムを主張している。アメリカという国は、何とも面白い国である。






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