あひるたちの新年会

少尉あひるの病気はかなり深刻なようだ。メールの文面からすると、一時は命の危険を感じたほどらしい。どんな病気か詳しいことはわからないけれど、年が年だけに、とんでもないことになりかねない。みなも用心しましょうと語り合った次第だ。

するとみーさんあひるが、おかげさまで長生きして喜寿を迎えましたと言う。その表情を見ると晴れ晴れして、とても喜寿の老あひるには見えない。まだ若々しいところは、現役時代の姿そのものだ。若さを保つのにもしコツがあったら教えて欲しい、そう言ったところが、みーさんあひるにも大病をしたことがあって、その時には、自分の寿命もこれまでかと観念したそうだ。その危機を乗り越えたからこそ、いまの自分があるのです、と神妙そうな顔つきで言う。

命の危険なら、最近わたしも体験しましたよ、とあんちゃんあひるが言う。突然ひどい眩暈に襲われて、世の中が真っ白になり、自分の頭の中もジェットコースターのように回り始めたので、このままあの世に行ってしまうのかと観念しました。なんとかその危機を脱出して、今宵はこのように皆さんと歓談できるのがとても幸せな気分です。もし今後、同じような目にあって、この世からいなくなりそうになったら、みなさまにはメールでご連絡しますと言うので、是非そうしてくれたまえ、みなで申し合わせて見送りにいくから、と小生はあんちゃんあひるを励ましてやったのであった。

眩暈なら、うちのかみさんあひるもつい最近やりました。なんでも耳の奥のほうが故障したのだそうです、といまちゃんあひるが言う。いまちゃんあひる自身は、他の病気で苦しんでいるけれど、眩暈とは縁がないそうだ。

どんな病気とも縁がないらしいのはオーさんあひるだ。オーさんあひるは、今まで一度も健康診断を受けたことがない。それでも全く体の不調を感じない、というので、羨ましく思った小生は、それならおそらく100歳以上まで生きますよ。所謂後期高齢者になっていまだに元気な人は、平均寿命より遥かに長く生きるはずだから、と言うとオーさんあひるは、100歳がわたしの寿命なら、わたしはまだ青春時代にあるということになります、と満足そうに言う。体が丈夫で、ボケもせずに100歳まで生きられれば、これに過ぎる幸運はないでしょうね。

寿命の話に花が咲いたところで、話題は再び少尉アヒルにもどり、かれも今回の危機を乗り越えたらきっと長生きしますよ、とあんちゃんあひるが言った。何故ってかれはあちらのほうは大好物で、あれが好きなものほど長生きするというじゃありませんか、と言うのだ。あれが好きって、いったい何が好きなんだいと尋ねると、あんちゃんあひるは目をむいて、あなたからそんな質問を受けるとは思いもよりませんでしたというような顔をする。ともあれ、わたしもあれは好きですが、少尉あひるほどのめり込むというわけではありません、云々。

寿命の話の延長で、最近死んだ人たちの噂話も広がった。こういう話になると、あんちゃんあひるは特にアクセルがかかって、とめどもなくしゃべりまくる。あの人は、おととしの秋ゴルフ場で元気な姿を見たと思っていましたら、昨年死んだという噂を聞きました。この人は、殺されても死なない、死神とは無縁な人だと思っていたし、本人も俺は不死だなどといばっていましたが、ある日突然ぽっくりと行ってしまったと聞きました。あひるならぬ人間の命ほどはかないものはないですね、といった具合だ。

ところでこの前のメールに書いてあった旅行の計画の件はどうなってるの、と横ちゃんアヒルに聞くと、かばんの中から紙くずのようなものを取り出して皆に見せた。それはネット上のツアー情報を出力しただけのもので、旅行の計画とはいえないものだったので、計画は煮詰まりそうかね、と念を押したところがなかなか要領を得ない。どうもまともに取り組んでいる様子が見られないのだ。いつもこんな調子で延び延びになっているから、ここはやはり静ちゃんアヒルに汗をかいてもらわないといけないかもしれない。

その静ちゃんアヒルは随分遅いけれど、どうしたのかね。横ちゃんあひるが本人から聞いたところでは、今夜は例の謡曲の仲間と新年の稽古をやっているらしい。それが終わってから来ると言っているようだけれど、あの稽古は結構遅くまでやっているから間に合わないかもしれないね。そう言っているあいだに、時刻はどんどん過ぎて、年寄りのあひるたちはすっかりいい気分になってしまったので、今夜は残念だけれどこれで散会しましょうということになった。静ちゃんあひるには、横ちゃんあひるといまちゃんあひるからよく話しておいてくれたまえ。

・あひるの絵本