
ダンテらはさらに先に進んで、城の麓に至り、城をめぐる流れを渡って緑さわやかな草原へと進んだ。するとそこには、キリスト以前に死んだ偉大な人々が、群をなしているのが見えた。その人々を、ダンテはひとりずつ確認してゆく。
かくて我等はかの時かたるに適はしくいまは默すにふさはしき多くの事をかたりつゝ光ある處にいたれり
我等は一の貴き城のほとりにつけり、七重の高壘これを圍み、一の美しき流れそのまはりをかたむ
我等これを渡ること堅き土に異ならず、我は七の門を過ぎて聖の群とともに入り、緑新しき牧場にいたれば
こゝには眼緩かにして重く、姿に大いなる權威をあらはし、云ふことまれに聲うるはしき民ありき
我等はこゝの一隅、廣き明き高き處に退きてすべてのものを見るをえたりき
對面の方には緑の芝生の上にわれ諸々の大いなる魂をみき、またかれらをみたるによりていまなほ心に喜び多し
我はエレットラとその多くの侶をみき、その中に我はエットル、エーネア、物具身につけ眼鷹の如きチェーザレを認めぬ
またほかの處に我はカムミルラとパンタシレアを見き、また女ラヴィーナとともに坐したる王ラティーノを見き
我はタルクイーノを逐へるブルート、またルクレーチア、ユーリア、マルチア、コルニーリアを見き、また離れてたゞひとりなる
サラディーノを見き、我なほ少しく眉をあげ、哲人の族の中に坐したる智者の師を見き
衆皆かれを仰ぎ衆皆かれを崇む、われまたこゝに群にさきだちて彼にいとちかきソクラーテとプラートネを見き
世界の偶成を説けるデモクリート、またディオジェネス、アナッサーゴラ、ターレ、エムペドクレス、エラクリート、ツェノネ(地獄篇第四曲から、山川丙三郎訳)
絵は、地獄の縁から、地獄の第一圏(リンボ)を見下すダンテとヴィリジリオ。眼下には広大な平原が広がり、そこにはキリスト以前の時代に生きていた大勢の偉大な人々がいる。そのなかからダンテたちがとりわけ気にかけたのは、ホメロスと古代の詩人たちだった。
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