
亡霊たちの苦しんでいる様子をよそに、炎をどこ吹く風と涼しい顔をして、ふてぶてしく横たわっている者がある。テーベを攻略したギリシャ七王の一人カパネウスである。かれは神をないがしろにし、ゼウスも自分にはかなうまいと豪語した咎で、ゼウスの怒りに触れ、雷に打たれて死んだ。
カパネウスは死んで地獄へ落されてもなお、傲慢さを失わず、このようにふてぶてしく横たわっているのだった。
我曰ふ、門の入口にて我等にたちむかへる頑なる鬼のほか物として勝たざるはなき汝わが師よ五
火をも心にとめざるさまなるかの大いなる者は誰なりや、嘲りを帶び顏をゆがめて臥し、雨もこれを熟ましめじと見ゆ
われ彼の事をわが導者に問へるをしりて彼叫びていひけるは、死せる我生ける我にかはらじ
たとひジョーヴェ終りの日にわが撃たれたる鋭き電光を怒れる彼にとらせし鍛工を疲らせ
またはフレーグラの戰ひの時の如くに、善きヴルカーノよ、助けよ、助けよとよばはりつゝモンジベルロなる黒き鍛工場に
殘りの鍛工等をかはるがはる疲らせ、死力を盡して我を射るとも、心ゆくべき復讎はとげがたし
この時わが導者聲を勵まして(かく高らかに物言へるを我未だ聞きしことなかりき)いひけるは、カパーネオよ、汝の罰のいよいよ 重きは汝の慢心の盡きざるにあり
汝の劇しき怒りのほかはいかなる苛責の苦しみも汝の怒りにふさはしき痛みにあらじ
かくいひて顏を和らげ、我にむかひていひけるは、こはテーベを圍める七王の一にて神を侮れる者なりき―
いまも神を侮りて崇むることなしとみゆ、されどわが彼にいへる如く彼の嘲りはいとにつかしきその胸の飾なり
いざ我に從へ、またこの後愼みて足を熱砂に觸れしむることなく、たえず森に沿ひて歩むべし(地獄篇第十四曲から、山川丙三郎訳)
絵は、傲慢な表情で横たわるカパネウスを、ダンテとヴィルジリオが見ているところ。
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