笠井潔、白井聡「日本劣化論」

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笠井潔と白井聡はいづれも、戦後日本に対して鋭い批判意識を持っている。笠井は戦後の日本が敗戦の事実にまともに向き合ってこなかったことで、いまだに国家として深刻な問題を抱えているとする。3,11は8.15をきちんと清算できていなかったことをあぶりだしたわけだが、このままでは同じようなことが繰り返され、第三の8.15も起りうるだろうと予言する。白井のほうも、日本は敗戦の意味を真剣に考えなかったおかげで、いまだに敗戦の亡霊に付きまとわれ、いわば永続敗戦の状態に置かれていると断言する。

こんな二人が対談するわけだから、日本の現状に対する批判がますます激情の様相を帯びるのは自然の勢いだ。彼らによると、戦後日本は欺瞞の塊のようなもので、それ自体が大いに問題を抱えていたわけだが、近年になってその問題はいよいよ拡大するばかりだ。そうした傾向を称して二人は、日本という国がますます「劣化」しつつあると嘆くわけである。「日本劣化論」というタイトルはだから、そのような彼らの危機意識を如実に反映していると言える。

日本という国の劣化現象はいたるところで見られるが、もっとも象徴的な事例は為政者の劣化だ。なかでも日本のいまの総理大臣である安部晋三の言動はあきれるほどお粗末なもので、日本の政治家もとうとうここまで劣化してきたかとため息をつきたくなるといった口吻である。

安部晋三というのは、日本の敗戦の事実を(とりわけアジアの隣国に対して)認めたくないばかりに、歴史上の事実を自分の都合のいいように書き換えようとまでしているが、そのたびに当該の隣国や主人たる米国の逆鱗に触れて撤回するというようなことを繰り返している。たとえば従軍慰安婦問題。この問題に関しては、従軍慰安婦問題についての所謂「河野談話・村山談話」をめぐって、安部晋三は、それを認めると何度も言わされてきた。大嫌いなものを認めますと何度も言わされるというのは、常識的に見ても異常なことで、そんなことをする安部晋三は、「ひょっとしてマゾヒストなのか、と思ってしまいますが、実際は単に頭が弱いだけでしょう」と白井などは言っている。

こんな頭の弱い人間が国のかじ取り役をやっているわけだから、彼に舵取りを任せている日本という国の将来は非常に危ういと二人は懸念する。もしかして対中戦争を始めるかもしれない。そうなったらどうなるか。二人の見方は非常に悲観的だ。中国はたいしたリスクを犯さずに日本を全滅させることができるだろうというのだ。考えただけで恐ろしいことだ。

日本の劣化を推し進めているのは右翼勢力だと二人は言う。安部晋三はその動きに乗っているというふうに見る。右翼と安部晋三とが手に手を取り合ってこの国の行末を危うくしているというわけである。

そこで、日本の右翼についての歴史的な考察を笠井が披露する。笠井によれば、日本の右翼には大別して二つの流れがある。一つは宗教的な尊皇攘夷の流れ。これは神国思想やウルトラ天皇主義を掲げている。もう一つは国権論とかアジア主義といったもので、主としてアジアに対する日本の優位を主張するものだ。第一の流れが天皇にこだわるのに対して、第二の流れはおおむね天皇には無頓着だ。たとえば石原慎太郎などは、中国をはじめとするアジアの隣国に対しては侮蔑的な姿勢を見せる一方、天皇にはほとんど拘っていない。

これは、思想の面から右翼を定義するやり方だと思うが、その他に運動を担った勢力に注目する見方もある。日本の右翼のうちもっとも大きな勢力は四国や九州から起った。これらの地方は維新を遂行した藩閥の拠点だったところでもある。藩閥勢力の中心部隊が維新を通じて表の権力を牛耳ったのに対して、そこからこぼれおちた末端の部分が右翼の運動体を形成し、いわば裏側から利権のおこぼれにあずかろうとした、そういう側面が指摘できるのではないか、と筆者などは見当をつけている。

日本の右翼全体に共通しているのは、対アジア膨張主義だろう。彼らは、中国との戦争に負けたなどとは思っていない、また朝鮮や台湾は日本の敗戦に付け込んだ形で日本の支配から脱しただけだと思っている。だから、中国には日本に勝ったというような妄想を捨てさせねばならぬのだし、朝鮮半島を再び領有すべきだ、と考えているわけである。

だが、日本が対中戦争に勝てる見込みは、二人の見立てではゼロである。そこで予想されることは、「戦争に負けて日本が中国の属国になったとき、今のネトウヨみたいな連中が真っ先に対中迎合派に転向し、嬉々として五星紅旗を振り始めるだろうということ」である。「要するに太平洋戦争の敗北のときと、まったく同じことが起きるわけです」(笠井)というのだが、いうまでもなくこんなことは起きてほしくない。そのためにも日本人は、先の敗戦の意味を真剣に受け止め、その反省に立って将来に向きあわねばならない、ということになるだろう。





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