ジネヴラ・デ・ベンチの肖像:レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画

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「ジネヴラ・デ・ベンチの肖像」は、ヴェロッキョの工房での宗教画から逸脱した世俗的な作品であり、レオナルドらしさが一層発揮されていると評されるものだ。もともとは、手の部分まで描かれていたが、後に下部が切断されて今日見るような形になった。そのもとの姿は、フランドル絵画の影響を強く感じさせるものであったと考えられる。上半身をやや斜めに向け、両手を膝の上にそろえて、顔を観客のほうへ向けるという構図は、フランドル絵画の著しい特徴である。

ジネヴラの表情はやや平板で、精彩に欠けているように見える。肌の色にも温かみがない。これは彼女の病気によるもので、レオナルドはわざわざそのことを文章で表現しているほどだ。あくまでもモデルに忠実に、写実的に描いたということを強調したかったらしい。

ジネヴラの背後には、ムロノキが冠のような形で配置されている。ムロノキはイタリア語でジネプロといい、モデルの名前ジネヴラを連想させる。だがそれ以上に注意すべきは、ムロノキが女性の徳のシンボルだとされたことだ。だから、この絵の中のムロノキは、単なる背景だとか、飾りだとか以上の意味が込められていると考えられる。

この絵の裏面には、植物をかたどったデザインが施されているが、それに添えられたリボンには、「美は得を飾る VIRTUTEM FORMA DECORAT」と記されている。彼女の美と徳とが調和しあっていると言うことで、彼女を褒め称えているわけであろう。(板にテンペラと油彩 38.1×37cm ワシントン・ナショナル・ギャラリー)







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