英国のEU離脱が意味するもの

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英国で行われていたEU残留か離脱かをめぐる国民投票の結果、EU離脱派が多数を占め、英国がEU離脱の道に踏み込むことが決定した。世界中には早速論評の嵐が吹き荒れ、それに釣られるかのように経済指標も乱高下した。日本でも自称評論家たちがわけのわからぬ言説をまき散らしている。これらはみな事態の深刻さを素直に反映したものだ。これについて筆者は、ほとんど意味のない寄与をすることをわきまえながらも、とりあえず自分自身の感想を、後々の参考という意味を含めて、書いておきたい。なにしろ世界史に残るような重大な出来事だ。ひとことくらい言わずにはすまない。

今回の動きが、最近の世界における反グローバリズムとそれとは密接な関係にあるナショナリズムの高まりを反映したものであることは、筆者のようなものが指摘するまでもない。英国はアメリカと並んで、グローバリズムを推進してきた国だが、そこでナショナリズムが高まりを見せていることに、時代の潮目のようなものが感じられる。グローバリズム推進の相棒だったアメリカさえ、トランプ現象に見られるように、アメリカ・ファーストという形のナショナリズムが勢いを見せている。この調子でナショナリズムの動きが弱まることがないと、近いうちに世界中が分裂の遠心力に駆動されるようになる可能性が強い。

もうひとつ、イギリスとEU諸国との関係の特殊性がある。EUというのは、ドイツを西ヨーロッパの枠組に閉じ込めることを目的にできてきたものだ。なにしろドイツは、二度にわたって世界大戦を引き起こしてきた張本人であるし、これからもいつ同じようなこと、それは第三次世界大戦を引き起こすということだが、それをやらかさないともかぎらない。そうなればヨーロッパ世界どころか、地球全体が存亡の危機に直面する。そうした危機感に動かされて、ドイツを西ヨーロッパの枠組に引き入れ、その動きをけん制する場として作られたのがEUだったわけだ。

だからEUは本来ドイツを制御するためにあるものだったのに、いつのまにかドイツが西ヨーロッパ諸国を制御するための格好の手段と化してしまった。いまやEUという枠組みは、経済的にも政治的にも、ドイツのために働いていると言って過言ではない。

これはイギリス人にとっては面白くないことだ。イギリス人には、かつては地球全体の覇者だという誇りがあったし、いまでも、すくなくともヨーロッパの覇者だという誇りがある。その誇りがドイツ人によって踏みにじられるようになってきたのだ。そのことに多くのイギリス人が誇りを傷つけられたように感じるのは、ある意味避けられない趨勢である。今後イギリス人は、おそらくアメリカとの同盟を強化することで、EU全体とバランスを取ろうとするようになるだろう。そのことを通じて、ドイツの風下には立たぬぞ、と自分にも言い聞かせようとするに違いない。

面白いのは、英国のEUからの離脱と並行して、スコットランドや北アイルランドが、グレート・ブリテンからの離脱を再主張するようになったことだ。とくにスコットランドの独立への意思はかなり強いようだ。英国=グレート・ブリテン全体としてナショナリズムへの強い意思を表明したことが、グレート・ブリテン内部での分裂傾向に拍車をかけたわけだ。





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壺斎様

 初めてメールいたします。貴殿のブログを最近になって発見しました。教養のレベルの高さに圧倒されます。

 英国のEU離脱は新聞報道をみていると、先頭きって離脱のキャンペーンを行った政治家が首相に立候補しない、しかも離脱後のビジョンも明確にされない、英国民は裏切られた思いに駆られ、困惑と混乱のなかにいるようです。

 先の二度の世界大戦の教訓から、ドイツをいかに封じ込めようとしてできたEUが、いつのまにかドイツがEUの盟主となっている。英国民ならずともヨーロッパの人々も快く思っていないでしょう。

 今回の国民投票の投げかけた混乱は、世界に新しい秩序を生み出す契機になるのだろうか。英国民の智慧そしてヨーロッパひいては世界の人々に問いかけることになったような気もいたします。
 株が暴落したり、ポンドが下落し多くの代償を払ったのだから、納得のいくような秩序が模索されねばならないとおもうのですが・・・・
 2016/7/1 服部

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