悪鬼から逃れるダンテとヴィルジリオ:ブレイクの「神曲」への挿絵

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ダンテとヴィルジリオの二人は、悪鬼が仲間内で争っているすきに逃げ出したはよいが、彼らの逃げたことに気付いた悪鬼たちが、すぐに後を追ってきた。その気配を感じたダンテは恐怖に囚われる。さすがのヴィルジリオも、身に危険の迫るのを感じるが、ダンテを抱きかかえるようにして先を急ぎ、第六の嚢に通じる場所を通りぬける。すると悪鬼たちは、その先までは追いかけてこなかった。

 言なく伴侶なくたゞふたり、ひとりはさきにひとりはあとに、さながらミノリ僧の路を歩む如く我等は行けり 
 わが思ひは今の爭ひによりて蛙と鼠のことをかたれるイソーポの寓話にむかひぬ 
 心をとめてよくその始終を較べなば、モとイッサの相似たるも彼と此との上にはいでじ 
 また一の思ひよりほかの思ひのうちいづるごとく、これよりほかの思ひ生れてわがさきの恐れを倍せり 
 我おもへらく、彼等は我等のために嘲られてその怨み必ず大ならんとおもはるゝばかりの害をうけ詭計にかゝるにいたれるなり 
 若し怒り惡意に加はらば、彼等我等を追來り、その慈悲なきこと口に銜へし兎にむかひて酷き犬にもまさりぬべし 
 我は既に恐れのために身の毛悉く彌立つをおぼえ、わが後方にのみ心を注ぎつゝいひけるは、師よ、汝と我とを 
 直ちに匿したまはずば、我はマーレブランケをおそる、彼等既にうしろにせまれり、我わが心に寫しみて既に彼等の近きをさとる 
 彼、たとへばわれ鏡なりとも、わが今汝の内の姿をうくるよりはやく汝の外の姿を寫しうべきや 
 今といふ今汝の思ひは同じ働同じ容をもてわが思ひの中に入り、我はこの二の物によりてたゞ一の策を得たり 
 右の岸もし斜にて次の嚢の中にくだるをえば、我等は心にゑがける追をまのかるべし 
 彼この策を未だ陳べ終らざるに、我は彼等が翼をひらき、我等をとらへんとてほどなき處に來るを見たり 
 たとへば騷擾に目覺めし母の、燃ゆる焔をあたりにみ、我兒をいだいてにげわしり 
 之を思ふこと己が身よりも深ければ、たゞ一枚の襯衣をさへ着くるに暇あらざるごとく、導者は忽ち我を抱き 
 堅き岸の頂より、次の嚢の片側を閉す傾ける岩あるところに仰きて身を投げいれぬ 
 粉碾車をめぐらさんとて樋をゆく水の、輻にいと近き時といへどもそのはやきこと 
 侶にはあらで子の如く我をその胸に載せ、かの縁を越えしわが師にはおよばじ
 その足下なる深處の底にふれしころには彼等はやくも我等の上なる頂にありき、されどこゝには恐れあるなし 
 彼等をえらびて第五の濠の僕となせし尊き攝理は、かしこを離るゝの能力を彼等より奪ひたればなり(地獄篇第二十三曲、山川丙三郎訳) 


絵は、迫りくる悪鬼たちの気配を感じながら、逃げ続けるダンテとヴィルジリオ。ヴィルジリオがダンテを、子どものように抱きかかえている。ダンテの表情は女性のそれを思わせるように描かれている。








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