取り持ち女:フェルメールの女性たち

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フェルメールには、製作年代の記載がある絵が3点だけある。「取り持ち女」はその最も古い作品で1656年の記載がある。フェルメールが24歳のときの作品である。この作品でフェルメールは、歴史画(宗教画)から風俗画に転じたと解説されているが、実はこの作品も、聖書の記述をテーマにしている点では、前作「マルタとマリアの家のキリスト」同様歴史画といえなくもない。

この絵がテーマにしているのは、ルカ伝の中に出て放蕩息子の話だ。父親が二人の息子に財産を分けてやると、兄のほうはそれを大事にしていたが、弟は旅に出て放蕩の限りを尽くし、一文無しになって戻ってくる。父親は息子が無事に戻ってきたことを喜んで祝福する。兄はそれを非難するのだが、父親はそんな兄を諌める、という話で、父親の寛容さと息子の改悛について語った教訓話として受け取られている。

当時は、この話が大変もてはやされて、絵の主題となることも多かったようだ。フェルメールの先人ヒエロニムス・ボスも放蕩息子をテーマにした絵を描いている。ボスの場合には、一文無しになって父親の家に戻ってくる息子を描いたが、フェルメールはこの絵の中で、放蕩に現をぬかす息子を描いていると受け取れる。

画面には四人の人物が描かれている。一番右手に売春婦が、そのすぐ脇に客の男(放蕩息子)がいる。男は女を抱くようにしてよたれかかり、右手でコインを差し出し、左手で女の肩を抱いている。女は左手でワイングラスを持ち、右手でコインを受け取ろうとしている。二人の左手には取り持ち婆がいて、二人の様子を覗き込み、その更に左手には男が立って、にやにやしながらことの成り行きを見守っている。

この構図は、フェルメールの義母の家に架かっていたディルク・ヴァン・バビューレンの絵「取り持ち女」に触発されたのだろうと指摘されている。この絵は、フェルメールの二つの絵「合奏」と「ヴァージナルの前に座る女」の背景画として描かれている。女とそれを抱きかかえる男及び彼らの様子を見守る取り持ち女の三人からなる構図である。

バビューレンの絵には、カラヴァッジオ派の影響が見られるが、その構図を借りたフェルメールのこの絵にも、カラヴァッジオ派の影響が指摘される。それは、画面に光線の源を提示して、それを支えにして明暗対比を強調するというものだ。レンブラントにも見られるこうした技法を、フェルメールもまた意図的に採用したと考えられる。

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これは、売春婦の部分を拡大したもの。売春婦は、画面のほかの部分に比較して、ことさらに明るく描かれている。そのため彼女のイメージが前面に浮かび上がるようになっている。彼女の頬の赤い部分がかなり強く強調されているが、これはワインに酔っていることを示そうというのであろうか。(カンヴァスに油彩 143×130cm ドレスデン、アルテマイスター絵画館)






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