
「鳶烏図」双幅のうちの烏図。雪の降り積もった木の枝に二羽の烏がとまり、なにやら思案げふうに見えるこの絵は、芭蕉の句「日ころ憎き烏も雪の旦(あした)かな」をイメージ化したものだと思われる。烏は憎い生き物だが、このように風雪に耐えている姿はけなげに見えるという趣旨の句で、この絵はまさにその雰囲気をそのままに伝えていると言ってよい。
下地に墨を薄く塗って前景のモチーフを浮かび上がらせてから、その白抜きの部分に墨で形を表現した上で、淡彩で微妙な調整を施している。降る雪は、墨を塗り残すことで表現しているが、かなりの離れ業である。おそらく細かい紙片を支持体において、その上から墨を塗ったのだろうと思う。

これは烏の部分を拡大したもの。二羽揃って前方を見つめている表情が、なんとも思案げに見える。烏の背中の雪は、青い顔料で表現している。(133.5×54.5cm)
壺斎様
江戸時代から烏は嫌われていたとは、蕪村が敬愛する芭蕉翁の句を絵にすると、烏も神々しくみえるではないか。黒と白のコントラスト、枝に積もった雪のふわふわとした質感、技術の粋がいかんなく発揮されている。
蕪村はどんな句を詠むのだろうか。
2017/7/28 服部