(右隻 166.9×363.7cm 紙本銀地墨絵淡彩 六曲一双)
「銀地山水図屏風」は天明二年、すなわち蕪村馬歯六十七、死の前年の作で、蕪村の南宋画の集大成と言えるものである。紙の上に銀箔を貼り、その上に墨と淡彩で描いている。左右どちらも、右肩に七言絶句を書き、それらの詩意を絵の中で展開している。
右隻の詩は、「唐宋聯珠詩格」から張籍の詩を取ったとされるが、杜牧の詩だとする説もあり、また句の一部に異同があったりして、問題を抱えている。蕪村による詩句は次のとおりである。
章水蛮中入洞流 章水蛮中洞に入って流る
人家住多竹棚頭 人家多く住む竹棚の頭
青山海上無城郭 青山海上城郭無し
只見松牌下象州 只見る松牌の象州に下るを
水上に突き出ている山は深山幽谷というわけには行かないが、雰囲気としては仙人が住んでいそうな感じである。
(左隻)
左隻の詩は同じく「唐宋聯珠詩格」から周南峰の詩をとったもので、内容は次のとおりである。
古駅頽垣不記春 古駅頽垣春を記さず
隔籬鷄犬舊此郷 籬を隔つる鷄犬此の郷に舊し
東家纔過西家去 東家纔かに過ぎ西家去る
便是閩人訪浙人 便ち是れ閩人の浙人を訪ふなり
仙境に通じる一本道を、人が通っていくというモチーフは、蕪村の作品に頻繁に表れるものである。
壺斎様
この絵は私に不思議な感情を引き起こす。蕪村が死ぬ一年前の作品とのこと。岩の描写などは幽幻の世界にあるように思えてならない。
馬に乗って一人トボトボと向かう先はどこであろう。画中の人物は蕪村であるのか、死を予感しての旅立ちなのか。
<便ち是れ閩人の浙人を訪ふなり>の詩句をただ表現しただけとは思えないのだが・・・・
2016/7/31 服部