北北西に進路を取れ(North by NorthWest):アルフレッド・ヒッチコック

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アルフレッド・ヒッチコックには、国際スパイ組織の暗躍をテーマにした「スパイアクション」というべき一連の作品があるが、「北北西に進路を取れ(North by NorthWest)」はその集大成と言ってよい。ヒッチコックの映画の中でも、もっとも成功したものの一つだ。その理由は、タフな男の息をつかせぬ活躍ぶりに、美人の女スパイとの恋を絡ませたところにある。派手なアクションと男女の恋はアメリカ人のもっとも好むところであるから、それらをともに満喫させてくれるこの映画が大ヒットしたのは当然だろう。

筋書きを簡単に言えば、国際スパイ組織の陰謀に巻き込まれた男が、殺人犯の汚名を浴びてその嫌疑を晴らすために、真犯人の手がかりを求めて探し回るというものだ。その点は「三十九夜」と非常に良く似ている。ヒッチコック自身も、この映画を「三十九夜」のアメリカ版のリメークだと語っている。ひとつ違うのは、男の前に現れた美人女性が、二重スパイだったという点だ。彼女ははじめ国際スパイ組織側の回し者として男の前に現れるのだが、実はアメリカ政府のエージェントとしてスパイ組織に闖入していたということが後でわかるのである。

実にややこしい設定なわけだが、この映画はその他にもややこしい仕掛けに満ちている。たとえば、男がスパイ組織に間違われたキャプランという男は、実在する任物ではなく、アメリカ政府機関が敵を欺くためにでっち上げた架空の人物だということになっている。その架空の人物をスパイ組織は必死で追っており、その過程でケーリー・グラント演じる主人公の男ソーンヒルが間違われてしまうのだ。

しかしキャプランが架空の人物だと言うことは、最後のギリギリのところまでわからないようになっている。だからその仕掛けが明らかになったときには、観客は狐につまされたような気分になる。そこがこの映画を良質のサスペンスにしている所以だ。

エヴァ・マリー・セイント演じる女スパイは、最初からセックス・アピールを用いてソーンヒルを誘惑してやろうという意図を露骨に感じさせる。ソーンヒルのほうも、早い時期から彼女が敵方のスパイであることに気づくのだが、それでも彼女との接触をやめない。それどころかソーンヒルは本気で彼女に惚れてしまうのだ彼女もソーンヒルに惚れたようで、最後には愛する男女の二人が、手を携えながらスパイ組織の追及から逃れるさまを描いている。スパイアクション映画が途中からラブロマンスに模様替えしたような具合だ。

アクション場面が多く出てくる中で、もっとも印象深いシーンは、中西部の見渡すばかりの平原に一人立ったソーンヒルが、農薬散布用のセスナに襲われるところだ。身を隠す場所もないむき出しの大地にいるソーンヒルに向かって、セスナが上空から襲い掛かる。ソーンヒルは必死になって逃げる。その追いつ追われつの捕り物劇がすさまじい迫力で迫ってくる。映画史上もっともエキサイティングな場面といえるのではないか。

クライマックスの場面は、歴代大統領の石像が並んだラシュモア山の有名なモニュメントを舞台に繰り広げられる死闘だ。女を危機から救い出したソーンヒルが、このモニュメントの上部に逃げてくる。そこへスパイ組織の一味が迫ってくる。ソーンヒルらは追い詰められてもはや万事休すの事態に陥る。そこへ奇跡がおきて二人は助けられる。

かくして生き延びた二人は、列車のなかのベッドルームで抱き合う。二人が始めて出会ったのも寝台車の中だったが、その時には愛し合って結ばれるとは思っていなかった。だがいまや二人は愛し合って、結婚するつもりで居るはずだ。何故なら二人を乗せた列車がトンネルの中に入っていくから。列車がトンネルの中に入っていくのは、ペニスがワギナの中に入ってゆくことの隠喩なのだ。






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