タイの憲法改正は安倍改憲の手本になる?

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クーデターで成立したタイの軍事政権が、憲法改正案を国民投票にかけたところ(8月7日のこと)、過半数の賛成票を獲得して成立した。この改正案は、上院の権力を強化しながら、その任命権を軍部にほぼ全面的に付与しているので、現在の軍部主導の政権運営をほぼ永久化する反民主的なものだとして、国際的な評判は悪かったのだが、タイの国民は民主主義よりも国の安定を望んだとして、一定の評価も成り立たないわけではない。

今の軍事政権がクーデターを起こすまでは、タイは立憲主義的な憲法の下で、民主主義の一定の前進を経験してきた。しかしその民主主義が、貧民のために金持ちを犠牲にしているというので、金持ち層を中心にした支配層から反発を受けた。タイの支配層というのは、最近のグローバル化で潤っている資本家階層と、軍を中心とした官僚階層から成り立っている。その階層が、行き過ぎた民主主義にブレーキをかけ、支配層がもっとハッピーになれる国を作ろうとして、クーデターを起こしたわけだが、そのクーデターが意外と効果を上げていることに自信を深めて、それをほぼ永続化しようとの意思にもとづき、今回の憲法改正に踏み込んだわけである。

この改正案は、欧米からの批判を始め国際的な評判がよくなく、またタイの国民の大多数も積極的に支持していたわけでもないので、成立しないだろうとの見方が強かった。それが意外にあっさりと成立したというので、色々な方面から驚きをもって迎えられたが、なかでも日本の安倍政権は、複雑な思いで見ているようだ。

いうまでもなく、安倍政権も憲法改正を最大の政治目標に据えている。国会の両院で改憲勢力が三分の二を制したこともあって、その目標はかなり現実味を帯びてきてもいる。だがいまのところ、国民の大多数は憲法改正に積極的ではない。だから、いま改憲にむけて国民投票を実施したら、否決される可能性が非常に高い。折角巨大なエネルギーをつぎ込んで改憲の国民投票に踏み切って否決されたら、改憲の見込みは半永久的に遠ざかってしまうかもしれない。そんな不安に安倍政権は苛まれているに違いない。

そこへ今回タイで、改憲が軍事政権の思惑通りに成功した、という話が舞い込んできた。安倍政権にとっては朗報になっただろう。なぜこれがかくも簡単に成功したか、それを入念に分析すれば、日本でも手本として使えるかもしれない。そんなふうに安倍政権が思ったとしても、それは不思議でもなければ不謹慎でもないというべきだろう。





コメント(1)

壺斎様
 軍事政権側の汚職撲滅の主張が政治の安定をもたらすと、タイ国民が考えたのも無理はない。汚職が政治の不安定をもたらしてきたし、政治家を信用できない、不公平かつ不誠実な政治に嫌気がさしたのではないだろうか。
 民主主義の政治の定着は難しい、ポピュリズムに陥り、思わぬ方向に向かうこともある。
 安倍政権が狙う憲法改正は、タイと政治風土が異なるので同じように考えることはないと思うのだが・・・
 2016/8/11 服部
 

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