ジャンニ・スキッキとミルラ:ブレイクの「神曲」への挿絵

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第九嚢でうごめいている亡霊の中に、悪鬼に苛まれているものがあった。ダンテの知人でフィレンツェ人のカポッキオである。二体の悪鬼が、カポッキオに襲い掛かり苛んでいる。二体の悪鬼の名は、ジャンニ・スキッキとミルラ。彼らは生前の悪行により豚の姿に変えられ、地獄に落ちてきたものに襲い掛かる使命を与えられているらしい。

 テーベの血セーメレの故によりユノネの怒りに觸れし時(その怒りをあらはせることしばしばなりき)
 いたく狂へるアタマンテはその妻が二人の男子を左右の手に載せてゆくを見て 
 我等網を張らむ、かくしてわれ牝獅子と獅子の仔をその路にてとらへんとさけび、非情の爪をのばし
 そのひとり名をレアルコといへるを執らへ、ふりまはして岩にうちあて、また女は殘れる荷をもて自ら水に溺れにき
 また何事をもおそれず行へるトロイア人の僭上命運の覆すところとなりて、王その王土と共に亡ぶにいたれる時
 悲しき、あぢきなき、囚虜の身のエークバは、ポリッセーナの死せるをみ、またこのなやめる者その子ポリドロを
 海のほとりにみとめ、憂ひのために心亂れ、その理性をうしなひて犬の如く吠えたりき
 されど物にやどりて獸または人の身を驅るテーベ、トロイアの怒りの猛きも 
 わが蒼ざめて裸なる二の魂の中にみし怒りには及ばじ、彼等は恰も欄を出でたる豚の如く且つ噛み且つ走れり
 その一はカポッキオにちかづき、牙を項にたてゝ彼を曳き、堅き底を腹に磨らしむ
 震ひつゝ殘れるアレッツオの者我に曰ひけるは、かの魔性の魑魅はジャンニ・スキッキなり、狂ひめぐりてかく人をあしらふ
 我彼に曰ふ、(願はくはいま一の者汝に齒をたつるなからんことを)請ふ此者の誰なるやをそのはせさらぬまに我に告げよ
 彼我に、こはいとあしきミルラの舊し魂なり、彼正しき愛を超えてその父を慕ひ
 おのれを人の姿に變へてこれと罪を犯すにいたれり、あたかもかなたにゆく者が
 獸の群の女王をえんとて己をブオソ・ドナーティといつはり、その遺言書を作りてこれを法例の如く調ふるにいたれるに似たり
 狂へる二の者過ぎ去りて後、我は此等に注げる目をめぐらし、ほかの幸なく世に出でし徒を見たり(「地獄篇」第三十曲から、山川丙三郎訳) 


絵は、上段にカポッキオに襲い掛かる悪鬼を描く。彼らは、原文では豚の姿とされているが、ブレイクがそれを狗頭の姿に変えて描いている。







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