真珠の耳飾りの少女:フェルメールの女性たち

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「真珠の耳飾りの少女」は、フェルメールの作品の中でもっとも人気が高いといってよい。日本人にも大人気で、2000年に始めて日本にやって来たときには、すさまじい数の人々が、一目見ようと押し寄せた。フェルメール自身が日本人に深く愛されているなかで、この絵はもっとも愛されているのである。

女性を描き続けたフェルメールとしては、この絵は他の絵とはかなり違ったところがある。フェルメールの大部分の絵は、女性が仕事をしている仕草や、稽古事をしているところなどを描いており、純粋な肖像画というよりは、風俗画の延長のようなところがある。ところがこの絵は、女性の姿をクローズアップして描き出しており、背景は黒く塗りつぶされて、女性の表情だけが大写しで浮かび上がるようになっている。そんなところから、近代的な肖像画といってもよいほどだ。

暗黒を背景にして人物の姿を浮かび上がらせる手法は。ダ・ヴィンチが確立したとされるが、それ以前に、ファン・エイクらのフランドルの絵がこの手法を肖像画に採用している。フェルメールのこの絵はだから、ダ・ヴィンチの影響というよりも、フランドルの肖像画の伝統を踏まえているのだろうと思う。

青いターバンのようなものを頭に巻き、異国風の上着を着て、こちら側、つまり観客のほうに一人の少女が顔を向けている。彼女の身体は横を向き、顔だけこちら側に向けた格好だ。口元をややほころばせ、目許はしっかりと観客のほうを見据えている。あたかも何事かを語りかけているかのようだ。この絵が異常に人気を博しているのは、少女が観客に向かって語りかけているような姿に、観客が思わず応えたくなることによるのかもしれぬ。

青いターバンと異国風な上着は東洋趣味を感じさせる。真珠の耳飾りもそうだ。この時代のヨーロッパでは、トルコが強国となってヨーロッパにちょっかいを出していたこともあって、東洋趣味が流行っていた。青いターバンも真珠の耳飾りもそうしたトルコ趣味を反映していると指摘されている。

バックは完全に黒く塗りつぶされている。その暗黒から浮かび上がった少女の姿は、色彩的には黄色を基調にして、一部寒色の青をまじえ、色の調和を図っている。背景が暗黒にかかわらず、顔や衣装にはそれなりに光が当たって、立体感を感じさせるように工夫してある。その立体感は、地の色に同系の色を重ねることで表現されている。普通なら補色、たとえば黄色なら紫、を重ねることで立体感を演出するのだが、この絵では、黄色の上に同系のアースカラーを重ねているわけである。

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これは少女の顔の部分を拡大したもの。画面のほぼ中央にある真珠の耳飾りが金属のような光を発する一方、衣装の白い襟の部分は自然の明るさでハイライトを演出している。少女の顔にさしている影が深いために、ハイライトの部分がいっそう強調されて見える。(カンヴァスに油彩 45×40cm ハーグ、マウリッツハイス美術館)






コメント(1)

壺斎様
 何かを語りかけるような眼差し、やや開けた口もとの唇、青色のターバンをかぶった少女は、観る者を惹きつけてやまない。
 おや、耳につけているのは真珠なのだろうか。これだけの絵になれば、多くの伝説を生み、物語がうまれるであろう。
 
 当時のオランダ人は世界を股にかけ商いをしていた。日本にもやってきた。キリスト教を布教しない約束で、長崎の出島に商館をもうけた。日本からは石見銀山から算出された銀を本国へ持ち帰ったらしい。又日本の着物や伊万里焼の陶磁器も持ち帰っていたのではないだろうか。フェルメールの故郷のデルフト焼きに伊万里焼きの影響がうかがえるという。
 フェルメールは日本を知っていたのだろうか。ずうっと後で、オランダに生まれたゴッホは大の日本かぶれであった。

 オランダは毎年ヨーロッパの海外情勢を幕府に報告する義務を負わされていた。日本はいながらにして、海外の情勢を把握していたらしい。
 日本人は蘭学を通じ西洋の学問などを学んでいた。オランダには感謝しなければならない。
 2016/8/27 服部

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