女主人と召使:フェルメールの女性たち

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「女主人と召使」は、構図的には「手紙を書く女」と似ているところがある。どちらも、大きなテーブルを前に女が座って手紙を書いている。テーブルにかけられたクロスや女の着ている上着も全く同じものだ。女の配置の仕方が画面の前に出てきているのも共通している。一方異なっている点は、女のほかにもう一人の人物である召使が加わっているのと、女がその召使のほうへ顔を向けているところだ。

女が手紙を書いている途中で召使が現れたのであろう。召使は手紙のようなものを持って、それを女の前に差し出している。女は手紙を書く手を休めて召使のほうへ振り返る。その仕草が興味深い。左手を顎にかけ、差し出された手紙をじっと見つめている。それは手紙を受け取る前に、なにかを考えながら躊躇しているようにも見える。召使の表情にも遠慮したところが伺われるので、この手紙にはなにか深い因縁があるように観客の目には映る。

こうしたことから、この絵をめぐっては様々な憶測がなされてきた。たとえば召使の手紙は男からのものであり、それを女がどう受け取ったらよいか思案しているのだとか、女がいままで書いていた手紙は、実はその男に向けてのものだったとかいうものだ。こんな解釈を容れるほど、この絵には表情豊かなところがある。

暗黒の背景から人物を浮かび上がらせているところは、「真珠の耳飾りの少女」や「少女の頭部」と同じ手法だ。背景を暗黒にしながら、人物たちに光をあてているために、明暗対比が強烈で、ドラスティックといえる効果を生み出している。しかも、画面下まで光を伸びさせているので、「手紙を書く女」と比べ、人物象がより強いインパクトを持たされている。

この絵には、女の頭部や上着への彩色の仕方や、背景の塗りつぶしのやり方などに不徹底なところがあると指摘され、そのことを根拠に未完成の作品だとする見方もある。この絵は、フェルメールとしては珍しく大画面なので、慣れていなかったのではないかとの推測もなされている。しかし、ざっと見た限りでは、明暗のコントラストといい、構図のダイナミックさといい、かなり優れた作品だと思う。

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これは女の顔の部分を拡大したもの。髪の描き方がややあっさりしていると見えないでもないが、未完成とも言えないように思う。うしろの髷につけられた白い飾り物の描き方も、なかなか効果的に見える。(カンヴァスに油彩 89.5×78.1cm ニューヨーク、フリック・コレクション)






コメント(1)

壺斎様
 「奥様、食料品がなかなか手に入らなくなりました、ほかにも必要なものがございますが、これらも手にはいりません。いかがしましょうか」という召使に途方にくれている女主人、夫は戦争に行って不在だ。こんな場面を想像したのだが・・・・・・
 緊迫した画面からの想像であるがどうであろう。

 当時、イギリスと同盟を結んだフランスがオランダに侵攻してきた。防戦一方のオランダはついに自らの手で堤防を決壊させ、アムステルダムへの侵攻を防いでいた。第三次英蘭戦争のさなかであった。
 2016/9/17 服部

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