東京橋場渡黄昏景、橋場の夕暮:小林清親の東京名所図

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(東京橋場渡黄昏景)

橋場の渡しは、隅田川に多くあった渡しの中でももっとも古く、かつ利用度の高いものだった。場所は、現在白髭橋のあるところのやや下流あたり、浅草側の橋場と向島側の梅若塚を結んでいた。業平が東下りの途中で隅田川を渡ったところであり、また謡曲「隅田川」で狂女が船に乗って向島に渡るのもこの渡しであった。

図柄は、対岸から手前に向かって進む船を描いている。対岸は向島で、森の中に見えるのは梅若塚ではあるまいか。

三人の客を乗せた船頭が櫓を漕いで船を進めている。その船に一羽のかもめが戯れかかっている。隅田川の渡し舟は今では見られなくなったが、白いかもめはいまも我が物顔に隅田川の上を飛んでいる。

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(橋場の夕暮 明治十三年)

これは夕暮れの隅田川を進む渡し舟を描く。上の絵とは反対に、船は浅草側から向島方面へ向かっている。謡曲「隅田川」を思わせる光景だ。「隅田川」では狂い女が船の上で舞うように求められるが、この船の上の女も、立ち上がって舞いでもしそうな雰囲気である。

雲が大胆なタッチで描かれ、雲の間を橋渡しするように虹が架かっている。こういうダイナミックな表現は、それまでの錦絵にはなかったものだ。






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