豊穣たる熟女たちと硫黄の湯を楽しむ

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バスは四時近くに湯元温泉に着いた。湯守釜屋という旅館に投ずる。かなり古い旅館で、あたり一面から館内まで硫黄の匂いが充満している。硫黄の匂いが嫌いな人にはかなり厳しい条件だ。我々はさほど気にしないので、部屋に案内されるとまずお茶を飲み、それから風呂につかることとした。T女とY女はその前に湯の湖の辺を散歩してくるという。明日そのあたりを歩くのだから、なにもいま行かなくても、と言ったが、明日は明日、今日は今日よといって出かけていった。小生は湯を浴びに行くことにした。


源泉は八十二度あるというとおり、湯はかなり熱かった。露天風呂につかっていると、どこからか女が大声で話すのが聞こえてきた。なんだろうと思って耳を傾けていると、どうやらM女の声である。同湯の人と会話をしているらしい。M女の声ばかりが聞こえてくるのは、十里も響き渡る声量のせいだ。

六時に二階の大宴会場で夕食が始まった。テーブルについて、散歩はどうだったかと聞くと、湯の湖では何人かが釣りをしていて、覗き込むと結構魚が釣れていたという。ニジマスやらホンマスの類が釣れるようで、なかでもホンマスはニジマス十匹以上の価値があるといって、釣った人は自慢げな顔をしていたそうだ。

給仕をしている人を見ると、ほとんどが顔つきからして外国人のようだ。そのうちの一人にT女が声をかけると、フィリピンから来て日本人と結婚し、日本語を覚えたので、最近ここで給仕に雇ってもらったのだと言う。話をきいたT女は、わたしの職場でもフィリピン人の女性が二人働いていますよ。あなたも頑張ってくださいね、と励ました。T女のところでは、フィリピン人のほかにも、台湾人や中国人、ミャンマーから来た人など、様々な外国人が働いているのだそうだ。

給仕などの単純労働はこれからも外国人が増えていくだろう、という話になった。特に介護の現場では、日本人だけでは足りず、ますます外国人を必要とするようになるだろう。その場合に、彼らの労働条件があまり劣悪にならないよう配慮しなければ、日本全体の評判が悪くなる。いま政府が進めている家事労働への外国人の活用などは、メイドを隠れ蓑にした蓄妾制度にならぬとも限らぬので、政府はよほど目を光らす必要がある、というような話だ。

介護の話が出た流れで、M女が亭主の介護の辛さについて語った。排泄のほうはまだ何とか自力でできているが、入浴はわたしが面倒を見なければならない。わたしがはじめに裸で風呂に入って、そこに亭主を来させて湯船につけ、体を洗ってやるというのだが、これがまた重労働なのだそうだ。そんなに大変なら自治体の介護サービスを利用すればいいじゃないの、と他の二人はいうのだが、亭主は人に裸をいじられるのをいやがって、わたしにやって欲しがるのよ、だから私もできる範囲でやってあげるの、とM女はやさしいことを言う。

出てきた料理が牛鍋やら豚肉のジンギスカンやら肉料理が主体なのは山中の宿ゆえ仕方のないこと。ただ味付けが大雑把ね、と熟女らは批評する。魚の料理では鮎の塩焼きが出てきたが、こちらは焼いた後大分時間がたっていると見えて、しまりのない味だった。まあ、山中の旅館なんてこんなものさ。うまいものを食いたかったら海の宿にいったほうがよい。

食後小生の部屋でウィスキーを飲みながら歓談した。今日は歩き出して早々M女がダウンしてしまったので、一時はどうなることかと心配になったけれど、なんとか無事に済んでよかったね。明日も大丈夫そうかね、と聞いたところ、なんとか皆さんに迷惑にならないよう頑張ります、と言う。じゃあ、予定通り戦場ヶ原を歩いて、もし途中で誰かが歩けなくなったら、抜け道に出ることとしようと話し合った。

ところで今大騒ぎになっている豊洲市場問題だけど、あれはわたしらみたいな庶民の目で見てもおかしいわ、都庁というところは全く無責任なお役所だなあ、とつくづく感じる。あなたは都庁のOBとしてどう感じてる?とT女が言う。そりゃあ僕の目にもおかしくは映るさ。でも僕は豊洲市場にかかわったこともないし、都庁の連中がおかしいのはわかるけど、そいつをとやかくいうつもりもないね。OBとしては、そんなことをすれば天に唾するようなものだからね。だが、某元都知事が都庁を伏摩殿と言い、都庁の役人を腐敗していると言ったのは、なんとも手前勝手な言い分だと思うよ。都庁の役人はたしかに無責任なところがあるが、それを増長させたのはほかならぬ都庁のトップたる知事の責任だ。その責任ある都知事の職にあったものが、自分の責任を棚に上げて、部下たる役人ばかりに責めをなすり付けるのは、全く以て見苦しいとしか言えないね。まあ、これ以上言うと、なにかと差しさわりがあるから言わないことにしよう、そう小生は言ってこの話を終わりにしようとしたのだった。

ところがT女は話を別の角度に向けて、この問題で今の女性知事が大いに女をあげたことに言及した。あの人はこの問題を最大限利用して自分の政治的立場を強化することができたのよ。それは、民進党の女性党首さえ、女性同士の誼を言い訳に、あの人に擦り寄ったことにも現れてるわ。政治家というのは勢いが大事だから、あの人はその勢いをこの問題をテコにして加速することができて、大いに喜んでいるに違いないわ、となかなか辛辣な批評をする。

こんな話をしている間に夜は更けていったので、いい加減なところで話を切り上げ、寝る前にもう一風呂浴びようということになった。今回は別の湯船につかったが、こちらは先程の湯よりも更に熱くて、長い間浸かっていられなかった。





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