東京小梅曳船夜図、小梅曳舟通雪景:小林清親の東京名所図

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(東京小梅曳船夜図 明治九年)

現在向島の曳舟通りになっているところは、以前は川が流れていた。この川はもともと亀有上水として、利根川の水を江戸市中に供給することを目的に掘られたものだ。その水路を利用して、船による物資の運搬も行われた。川が狭いこともあって、船は両河岸から綱で引っ張って動かした。これを曳舟というが、そこからこの水路を曳舟川というようになった。その名残が曳舟という地名や通り名になっているわけだ。(ちなみに昔の向島区役所は、この曳舟通りの近くにあった)

絵は、黄昏の中に浮かび上がる一條の水路を描いている。これが曳舟川だ。右手の男は、肩に手をかけて、綱を引っ張っているように見えるが、肝心の船の姿は見えない。男の前を行く女らしいものも、画面をよく見ると、綱を引いているように見える。

岸辺では子どもと思われる二人の人物が、なにやらしているが、これは雑魚でも釣っているのだろう。遠景には満月が見える。満月だから、船仕事が出来るほどに、明るいわけだ。昔は、日が沈んでから屋外で仕事をすることは普通はなかった。

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(小梅曳舟通雪景 明治十二年)

これは曳舟川の雪景色だ。川にかかった橋の上をはじめ、あたり一面が雪に覆われている。その雪景色の中を二人の女が歩いてゆく。傘を畳んでいるところから、雪はもう止んだのだとわかる。女たちは、そんな雪のことなど頭にないかのように、二人きりの会話に熱中しているようだ。

この橋のかかった場所がどのあたりかは、よくわからない。いずれにせよ、今日の曳舟通りはそれなりに賑わいがあるが、明治の初年にはまるで田園地帯のように見える。






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