王や天使のいる山ふところ:ブレイクの「神曲」への挿絵

| コメント(0)
d2081.jpg

煉獄山の麓を行くダンテとヴィルジリオの前に一人の亡霊が現れる。ヴィルジリオの故郷マントゥアの人ソルデッロの霊であった。ソルデッロはヴィルジリオと出会ったことを大いに喜び、彼ら二人を案内することを引き受ける。だが、煉獄山では夜歩くことはかなわぬ故といって、さる山ふところの緑地に二人を連れてゆく。そこで二人は、身分の高い人々の亡霊たちが集まっているのを見た。

亡霊たちは、ダンテが生きていることを知ると、次々と彼に懇願する。地上に帰ったら、自分の消息を家族に伝え、自分のために祈祷してくれるように言って欲しいというのだった。

そこへ二体の天使が天上から下ってくる。天使たちは、この亡霊たちを蛇から守るのが役目のようであった。実際、しばらくして一匹の蛇が現れたが、天使たちによってただちに追い払われたのであった。


 我はかの際貴き者の群の、やがて色蒼ざめ且つへりくだり、何者をか待つごとくに默して仰ぎながむるを見き 
 また尖の削りとられし二の焔の劒をもち、高き處よりいでて下り來れるふたりの天使を見き 
 その衣は、今萌えいでし若葉のごとく縁なりき、縁の羽に打たれ飜られて彼等の後方に曳かれたり 
 そのひとりは我等より少しく上方にとゞまり、ひとりは對面の岸にくだり、かくして民をその間に挾めり 
 我は彼等の頭なる黄金の髮をみとめしかど、その顏にむかへば、あたかも度を超ゆるによりて能力亂るゝごとくわが目眩みぬ 
 ソルデルロ曰ふ。彼等ふたりは溪をまもりて蛇をふせがんためマリアの懷より來れるなり、この蛇たゞちにあらはれむ。 
 我これを聞きてそのいづれの路よりなるを知らざればあたりをみまはし、わが冷えわたる身をかの頼もしき背に近寄せぬ 
 ソルデルロまた。いざ今より下りてかの大いなる魂の群に入り、彼等に物言はむ、彼等はいたく汝等を見るを悦ぶなるべし。 
 ・・・
 かの小さき溪の圍なきところに一の蛇ゐたり、こは昔エーヴァに苦き食物を與へしものとおそらくは相似たりしなるべし 
 身を滑ならしむる獸のごとくしばしば頭を背にめぐらして舐りつゝ草と花とを分けてかの禍ひの紐は來ぬ 
 天の鷹の飛立ちしさまは我見ざればいひがたし、されど我は彼も此も倶に飛びゐたるをさだかに見たり 
 縁の翼空を裂く響きをききて蛇逃げさりぬ、また天使等は同じ早さに舞ひ上りつゝその定まれる處に歸れり(煉獄篇第八曲から、山川丙三郎訳)


絵は、山ふところの緑地に立つ(左から順に)ダンテとヴィルジリオとソルデッロの三人。ソルデッロの足は地面に着いていない。二体の天使は空中で向かい合っている。この後、左右に別れて地面に立ち、亡霊たちを間に挟むような形になる。そこへ一匹の蛇が右手から這いながら迫ってくる様子が描かれている。









コメントする

アーカイブ