(滝の川の図 明治十一年)
滝野川は、飛鳥山と一対になった形で、桜の名所として知られるが、この絵は紅葉の滝の川を描いている。場所としては、滝の川が飛鳥山からのびる高台にさしかかるところだろう。いまでもこのあたりは、鬱蒼とした感じで、都会のオアシスのような雰囲気を湛えている。
滝の川は、音羽川ともいい、石神井川の下流をさす。東京北郊の田園地帯を流れてきた石神井川が、王子地区の高台を通る際に、いくつもの滝をなしながら急流となって流れるところから、滝の川と呼ばれるようになった。滝を流れ落ちた水は、いまの都電の王子駅で方向をかえ、隅田川方面へと流れてゆく。もっとも大部分は暗渠となってしまっているが。
紅葉狩りの行楽気分の人々が、床机に腰掛けてくつろぎ、中には弁当を広げる人もいる。この断崖のような高台の下に、滝の川が流れているわけだ。
(滝の川の池の橋)
滝の川は、川であって池ではない。それを滝の川の池というからには、川を池と見立てたのか、あるいは滝の川の近所にある池を言ったものなのか。もし後者とすれば、思いあたる池がないわけではない。王子神社付近に昔から名主屋敷というものがあるが、そこの庭にちょっとした池が掘られている。その池だとすれば、橋があるのもうなづける。
この図柄も紅葉を描いている。紅葉もまた、江戸・東京の庶民にとって身近に味わえる目の保養だったのだろう。なお、この池が名主屋敷の池だとすれば、かなり大きな滝がかかっているはずだ。その滝は広重もとりあげて描いている。
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