ダンス(La dance):マティス、色彩の魔術

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ロシア人の美術評論家で、マティスの得意先でもあったシチューキンが、1909年の3月頃、マティスに装飾用パネルの創作を依頼してきた。三階建ての彼のアトリエの一階ホールに飾りたいという趣旨だった。ダンスをテーマに描いて欲しいという。マティスは早速水彩画で習作を描き、それをシチューキンに見せたところ、シチューキンは大いに気に入った。そこでマティスは、油彩による本格的な作品をすばやく完成させた。

上は、水彩画による習作。これを描くにあたって、マティスは人体が踊るときの躍動感を自分の身で感じ取ることができるように、モンマルトルにある有名な舞踏場ムーラン・ド・ラ・ギャレットに脚を運んだ。ここは、ルノワールの有名な絵の舞台ともなったところで、庶民が気楽にダンスをすることができる場所だった。

裸体の五人の女たちが、手をつなぎ、輪になって踊っている。彼女らが踊っているのは、マティス自身の説明によれば、丘の頂だそうである。その頂の上の開放的な空間の中で、若い女たちがのびのびとした動きで踊っている。この躍動感というか、生命のほとばしりのようなものは、「生きる喜び」以来の、マティスの人間賛歌の延長上にある。

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これは、上記の水彩画をもとに、油彩で描き上げたもの(1909年 キャンバスに油彩 259.7×390.1 ニューヨーク、現代美術館)。ホールを飾るに相応しい大画面だ。だが、シチューキンに手渡したものは、翌年になって描きあげた第二ヴァージョンのほうである。

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これが、シチューキンの手に渡った第二ヴァージョンの「ダンス(1910年 キャンバスに油彩 260×391 ペテルブルグ、エルミタージュ美術館)」。大きさは第一ヴァージョンと同じだが、人物の描き方が、より躍動的になっている。

マティスは、この絵のダンスに興じている人々の構図が非常に気に入ったと見えて、この図柄を取り入れた静物画を何点も描いている。







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