安部晋三をたたえる

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旧友の一生と久しぶりに会い、船橋の縄暖簾で歓談した。随分久しぶりだが元気でやってるかい、と互いに確かめ合うようにして挨拶する。俺もこんな白髪頭になってしまったが、お前のほうはまた一段と禿げてしまったな、てっぺんまで淋しくなったじゃないか、と遠慮のないことを一生がいうので、お前さんはお前さんで元気な様子がなによりだが、随分とふくよかな顔になったな、まるで達磨のようじゃないか、と筆者も負けずに冷やかす。

一生は元来無骨な人間なので、文学とか芸術とかは語らない。彼がもっぱら語るのは政治だとか世相だとかである。若い頃から政治には関心があったらしく、自民党に入党したりもしたが、政治家をやろうとまでは思わなかったという。いっぱしの政治的意見をもって、世の中を正しい視点で見るのが彼のモットーなのだそうだ。

その彼の正しい意見によると、今の安部晋三政権はよくやっているという。安部晋三政権のどこがよいのかね、と聞くと、日本という国に誇りを取り戻したことだという。安部晋三政権は日本に誇りを取り戻しただけでなく、国際社会での存在感を高めた。内には自分に誇りをもち、外には毅然として存在感を示す、これは国としての当たり前の姿だが、その当たり前のことを今までの日本の政治はやってこなかった。安部晋三政権はそれをやっている。それだけでも立派というべきだ、と大変な褒めようである。

お前さんは昔から改憲論者だったが、どうかね、安部晋三政権は改憲に成功すると思うかね、そう筆者が言ったところ、思うも何もやってもらわねばならん。憲法を改正して堂々と国としての姿を整える、国防に憲法上の根拠を与え、国民には国を愛する気概を求める、これは是非ともやらねばならぬ。まあ、政治的なリアリズムというものもあるから、いま自民党が用意している憲法草案をそっくりそのまま国民に呑ますわけにもいかぬだろう。その辺は安部晋三もよくわかっていると思うから、粗相のないようにやるとは思うが、とにかく日本人の手による自主憲法を持つことが大切だ。

しかし安部晋三には、なかなかしたたかなところもある。自民党草案のようなものをそっくり実現できればベストだろうが、なかなかそうは行かない事情がある。なにしろ国民の大部分は自民党の草案に同意するとは思えない。いくら国会で絶対勢力を持っているからと言って、自民党草案のようなものを強行採決してレファレンダムにかけたら、否決される可能性のほうが大きい。そうなったら憲法改正の機運自体がすっかりすぼんでしまうことになる。安部晋三も、それは愚策だと判っているだろうから、国民に受け入れられると確信できるものからレファレンダムにかけるだろう。

理想は理想として、彼にはもう一つ野心がある。それは、日本の歴史に聳えるような偉大な政治家の名を残したいということだ。そのためには憲法改正がもっとも手っ取り早い材料になる。なにしろ誰もやれなかった憲法改正を自分がやったとなれば、自分は日本の歴史に大きな足跡を残す十分な資格がある、そう思っているだろうから、とりあえずは、賛否の争いのあるものではなく、国民に受け入れられるような微調整でもいいのではないかと思っているに違いない。どんなかたちであれ、憲法改正は憲法改正だ。それを自分がやれば偉大な功績になるだろう、きっと安部晋三はそう思ってると思うよ、となかなか現実的なことも一生は言う。

それはありえそうな話だ、と筆者も相槌を打った。最初に大風呂敷を広げて相手を挑発し、いい加減なところで妥協すると見せかけるのは安部晋三のよくやる手だからね。憲法改正についても大風呂敷を広げることから始めて、結局は風呂敷の片隅を小出しにするというくらいで収めるかも知れない。どんなわずかな改正でも、憲法を改正したとなれば、その実現者としての名誉は自分のものにできるだろうからね。

ところで安部晋三にはもう一つ大きな野心があるようだ、と今度は筆者のほうから話題を出す。安部晋三が北方領土問題に熱心なのはご案内のとおりだが、その本意はどうやらノーベル賞にあるのじゃないか、そう思えるところがある。安部晋三の大叔父の佐藤栄作がノーベル賞を貰ったのは、沖縄の返還を平和的に解決したからだが、自分もそのひそみに倣い、北方領土の返還を平和的に、つまり暴力の行使を伴わないで実現できたら、これは沖縄返還以上に大きな出来事だから、きっとノーベル賞の受賞に値するに違いない。そう思ってこの問題に懸命になっているんじゃないのか。政治家にとってノーベル賞は大きな勲章だからね。そう筆者が言うと、おい、それは問題を矮小化するというものだ。安部晋三が北方領土の返還問題に取り組んでいるのは、国の主権をはっきりさせるという至極当然な発想からで、別にノーベル賞が欲しくてやっているわけじゃあるまい、と一生は強く反発した。

まあ、そういうことにしておこう。しかし、失った領土を取り戻す為には、もう一度戦争をやって勝たねばならないというのが、これまでの歴史の教えるところだ。ロシアも北方領土は戦争の結果として獲得したのだから、おいそれとは返さんぞと言っている。ということは、返してもらいたかったらもう一度日露戦争をやって、勝ってみろと言っているに等しい。そんな相手を前にして、北方領土を平和的に返還させることはまあ無理なんじゃないかね。安部晋三政権は金で買い戻そうとしているようだが、そううまくは行かんと思うよ。

こんな具合に話は進んだ。安部晋三については、筆者はほかにもいろいろ(安部晋三の礼賛者を前に)言いたいことがあったのだが、議論が進むに連れて互いに大声を出すようになり、そしてそれは飲み屋の中がうるさくて大声を出さないでは互いに聞き取れないからであった為だが、そんなことで聊か疲労感に捉われるところとなり、これ以上議論を進めることが出来なくなったのは、残念というほかはない。議論の続きはいづれまたの機会に送ることとして、今晩はこのあたりで〆とすることにしよう。そう言って我々は別れたのであった。





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