ダンテを差し招く天使:ブレイクの「神曲」への挿絵

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ダンテとヴィルジリオは、煉獄の七つの冠を次々と経てゆく。第二の冠を出た後、第三の冠は憤怒、第四の冠は怠惰、第五の冠は貪欲、第六の冠は貪食、第七の冠は貪色の、それぞれの罪を清めるために当てられていた。それらを通り過ぎると、ダンテ自身の罪も洗い清められ、その証拠に、煉獄の門で天使によって額に付けられた七つのPの文字が、次々と消されてゆくのだった。

かくしてダンテとヴィルジリオは、第五の冠で一緒になったスターツィオともども第七の冠を通り過ぎ、いよいよ煉獄山の頂上近くにたどりついた。ところが、そこには猛火の帳が立ちふさがっていて、その火を潜り抜けなければ、先へは進めないのだった。火の向こう側には一人の天女がいて、ダンテに火をくぐってこちら側にくるよう差し招いている。

だが、ダンテは火の勢いに怖気づいて、とてもくぐるような気にはならない。そのダンテをヴィルジリオがしかりつけて、恐れることなく火をくぐるように激励する。


 今や日はその造主血を流したまへるところに最初の光をそゝぐ時(イベロは高き天秤の下にあり 
 ガンジェの浪は亭午に燒かる)とその位置を同じうし、晝既に去らんとす、この時喜べる神の使者我等の前に現はれぬ
 彼焔の外岸の上に立ちて、心の清き者は福なりとうたふ、その聲爽かにしてはるかにこの世のものにまされり 
 我等近づけるとき彼曰ひけるは。聖なる魂等よ、まづ火に噛まれざればこゝよりさきに行くをえず
 汝等この中に入りまたかなたにうたふ歌に耳を傾けよ。かくいふを聞きしとき我はあたかも穴に埋らるゝ人の如くになりき 
 手を組合せつゝ身をその上より前に伸べて火をながむれば、わが嘗て見し、人の體の燒かるゝありさま、あざやかに心に浮びぬ 
 善き導者等わが方にむかへり、かくてヴィルジリオ我に曰ふ。我子よ、こゝにては苛責はあらむ死はあらじ 
 憶へ、憶へ......ジェーリオンに乘れる時さへ我汝を安らかに導けるに、神にいよいよ近き今、しかするをえざることあらんや 
 汝かたく信ずべし、たとひこの焔の腹の中に千年の長き間立つとも汝は一筋の髮をも失はじ 
 若しわが言の僞なるを疑はば、焔にちかづき、己が手に己が衣の裾をとりてみづからこれを試みよ 
 いざ棄てよ、一切の恐れを棄てよ、かなたにむかひて心安く進みゆくべし。かくいへるも我なほ動かずわが良心に從はざりき 
 わがなほ頑にして動かざるをみて彼少しく心をなやまし、子よ、ベアトリーチェと汝の間にこの壁あるを見よといふ 
 桑眞紅となりしとき、死に臨めるピラーモがティスベの名を聞き目を開きてつらつら彼を見しごとく 
 わが思ひの中にたえず湧き出づる名を聞くや、わが固き心やはらぎ、我は智き導者にむかへり 
 是に於てか彼首を振りて、我等此方に止まるべきや如何といひ、恰も一の果實に負くる稚兒にむかふ人の如くにほゝゑみぬ(煉獄編第二十七曲から、山川丙三郎訳) 


煉獄編へのダンテの挿絵は、第十三曲から一気に第二十七曲に跳ぶ。この絵は、第七の冠を経て、煉獄山の頂上を前に現れた猛火の帳の前で立ちすくむダンテらを描く。猛火の中から天女の姿が浮かび上がり、ダンテらに手招きをしている。それに対してダンテらも手を上げて応える。








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