トランプと反ユダヤ主義

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トランプの政策の一つに在イスラエル大使館をテル・アヴィヴからエルサレムに移すというものがあったが、それを巡ってアメリカのユダヤ人社会で大きな反応が起きているようだ。アメリカにはイスラエルと並んで地上最大のユダヤ人コミュニティがある。そのコミュニティは、必ずしもイスラエルのユダヤ人と利害を同じくするわけではない。イスラエルのユダヤ人が喜ぶことが、アメリカのユダヤ人を窮地に立たせることもありうる、そう彼らは考えている。

もしアメリカがエルサレムに大使館を移したら、パレスティナは勿論アラブ世界が大きく反発するだろう。イスラエルとパレスティナの和平への機運は一気に崩壊し、両者の敵対が強まる一方、アメリカはイスラエルに一方的に肩入れしているとして、中東和平の調停者としての存在感を喪失し、アラブ世界から敵対的に見られるだろう。こうした動きはアメリカのユダヤ人社会にも大きな影響を及ぼさざるを得ない。それはアメリカに潜在している反ユダヤ主義に火を点けるような効果をもたらす恐れが強い、そうアメリカのユダヤ人コミュニティは心配しているわけだ。

アメリカのユダヤ人コミュニティはトランプに対して、中東問題での外交的駆け引きはビルを買収するための取引とは違うのだから、もっと慎重にやってもらいたいと言っているようだ。それをトランプも受け止めているように見えるのは、彼がこの問題に触れなくなっていることから伺える。

パレスティナへの挑発は、娘婿のクシュナーあたりが唆しているのかもしれない。クシュナーはネタニアフとは入魂の間柄で、ネタニアフの願いをトランプに取り次いでいる。いままでオバマからコケにされてきたネタニアフとしては、アメリカとの絆をアラブ世界に向かってアピールするうえで、アメリカ大使館のエルサレムへの移動は手ごろな策になりうる。

クシュナーがアメリカのユダヤ人コミュニティの利害を考慮しているかといえば、どうもそうには見えない。イスラエルのユダヤ人にとってよかれと思ってやったことが、アメリカのユダヤ人コミュニティにはマイナスに働く場合もあるということが、彼には見えていないようだ。

トランプの取り巻きの中には、バノンのように露骨な反ユダヤ主義者がいる。そうした連中は、ユダヤ人迫害のために利用できることがあれば、それを利用して迫害を正当化しようと手ぐすねを引いている。イスラエルのユダヤ人が、アメリカを巻き込みながらパレスティナ人たちに高圧的に臨もうとすれば、それはアメリカのユダヤ人社会に跳ね返って、反ユダヤ主義をあおる原因ともなりかねない。

ユダヤ人の利害を重視する人間と、反ユダヤ主義を隠さない人間と、その両者をともに抱え込んだトランプ政権が、果していつまで一枚岩でいられるのか、心ともないところだろう。






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