東アジアに広がる中国の影

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安倍晋三総理がプーチンに色目を使って東アジアから目を背けている間にも、この地域の情勢は確実に変化している。それを一言で言えば、中国の影が地域全体に広がりつつあるということだ。その動きについて、筆者の参照できる範囲の情報をもとに、概観してみたい。

まず、フィリピン。フィリピンは最近まで親米政策を取ってきたが、ドゥテルテが大統領になって以来、急速に反米に傾いた。ドゥテルテの麻薬勢力を対象にした超法規的殺害に対して、オバマ政権が批判的な姿勢を見せたことに反発したことが直接の引き金になったが、フィリピンの経済状況が中国寄りになっていることが根本的な理由だと考えられる。いまやフィリピンの経済は華僑勢力が牛耳っていると言われる。彼らはアメリカよりも中国との経済関係により魅力を感じていると言われる。これがフィリピンを中国寄りに傾斜させているとすれば、ことは構造的な問題という様相を呈しているわけだ。

人権問題が引き金になったことから、フィリピンはロシアとの結びつきも強めようとしている。ロシアは人権問題等のフィリピンの内政問題に、とやかく口を挟まないからだ。その点では、新しくアメリカの大統領になるトランプも、同じ姿勢をとると思われるが、トランプの場合は、アメリカファーストの姿勢からして、フィリピンを経済的に助けてやろうとすることはないだろう。そういう点では、フィリピンと中国・ロシアとの関係は今後強まることはあっても弱まることなないだろう。

マレーシアは、これまでもアメリカとの間に波風を立ててきたが、ここへきて急速に中国寄りに転じた。中国から四隻の軍艦を購入したことは、その象徴的な出来事だ。

ラオスとカンボディアは、もともと中国と親密だったが、ラオスは昨年(2016年)中国による大規模なインフラ整備を眼目とした協定を結び、一層中国寄りの姿勢を強めている。カンボディアは、南沙諸島についての中国の動向を厳しく断罪した国際司法裁判所の決定に、中国の意向を踏まえた対応をした。

タイは、クーデターで軍事政権ができて以来、アメリカやEUとの関係がぎくしゃくしている。そこへ中国が付け込んで影響力を強めている。

ミャンマーのスーチー女史は、欧米諸国寄りの姿勢にかかわらず、中国との関係についても気を使っている。彼女が最初に訪問した外国は、アメリカではなく中国だった。そのことは、ミャンマーが対中関係を重視していることのあらわれであり、今後それが一層強まる可能性は十分にあると考えてよい。

シンガポールとインドネシアは、伝統的に対米関係重視の姿勢を取ってきたが、近年は中国重視の姿勢を強めていると言われる。この両国の政策は米中の間でバランスをとるということで、政治的にはアメリカを重視しながら、経済的には中国との関係を強めようとしているようだ。

こんななかで強烈な反中国政策を取っているのがベトナムだ。ベトナムは南沙諸島を巡って中国と鋭い対立関係にあり、いまのところそれが弱まるとはみえない。

以上東南アジア諸国は、一応ASEANという共通の枠組の中にいるが、ASEANによって政策を拘束されるということはないので、各国ごとに独自の判断で対中国政策を見極めているわけだ。したがって中国としては、それぞれ二国間関係として、それらの国との関係を整え、それを通じて自国の影響を高めるという戦略をとっているわけである。

東アジアでも、北東アジア情勢となると、韓国と北朝鮮が主なプレイヤーになるが、韓国については、朴槿恵大統領の失脚にともない、政治状況が一気に液状化する可能性が高い。その場合、野党政権が実現すれば、従来のアメリカ一辺倒の姿勢を改め、中国との関係強化を図る動きが強まるだろう。中国は、アメリカが朴槿恵とともに進めているTHAADに強く反発しており、政治的にも経済的にも韓国への締め付けを強めている。野党政権が登場すれば、中国との関係を立て直し、また北朝鮮とも対話の姿勢で臨むなど、従来の対決姿勢を弱める可能性は高い。

以上の動きはいづれも、安倍政権にとって望ましくないことであるが、何せ安倍政権はロシアとのことで頭がいっぱいで、近隣諸国まで気が回らなかった。そのつけが、東アジアにおける中国の影の広がりという形であらわれているわけだろう(安倍晋三の能力では、広角的に目を配るというのは、無理な相談かもしれぬが)。

(参考) U.S. may be losing East Asia to China  By Bob Savic





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