Hard Brexit:テレサ・メイの選択

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イギリスの首相テレサ・メイが、所謂Hard Brexitの方向性について言明した。ごくかいつまんで言うと、EUの単一市場を脱退してでも移民の流入を抑止するというものだ。移民の流入について、彼女の抱く危機感を反映した選択だと受け止められる。

イギリスの移民問題は三重の構造を呈している。まず、インドなど旧植民地からの移民の流入。これはまあ、自国の植民地支配の遺産みたいなものだから、自業自得というべきだろう。二つ目は、EUに入ることによって、EU域内の人の自由な移動を受け入れることとなり、その結果東欧諸国から大量の移民が流れ込んだということがある。ロマ人の移入はその象徴的なものだが、これら移民の流入によって、かれらにかかる社会保障負担が重くのしかかってきた。実際東欧諸国からの移民は、イギリスの手厚い社会保障を目当てにやって来ると言われる。第三は、中東からの難民受け入れだ。これは必ずしも移民問題にストレートにリンクするわけではないが、メルケルやオランドが積極的ということもあり、イギリスにも受け入れの圧力がかかっていた。そんな受け入れにはこれ以上付き合えないというのが、テレサ・メイの正直な思いなのだろう。

一方、Hard Brexitに伴うイギリスのリスクのうち最大のものは、経済にかかわるものだ。これには製造品の貿易についての問題と、金融面での問題と、二つがからみあっている。製造品の貿易という点では、イギリスはとっくに産業国家ではなくなっており、製品の輸出によって潤うという構図は成り立たなくなっている。イギリス人は、これもEUに入ったことの副作用だから、EUから抜ければ又昔のように産業が復活すると主張する向きもあるようだが、それは甘い見込みと言うべきだろう。イギリスが産業国家でなくなったのは、サッチャー以降自覚的に金融国家へシフトしてきた結果だと考えた方がよい。

その、金融国家としてのイギリスの未来については、EUからの脱退はかなりなダメージになると予想される。域内の金の自由な流れから外れることになるからだ。金というものは、物以上に自由な流通を要求するものであって、その流れが国境の壁によって阻害されるようなことがあれば、のびのびと発展することが出来なくなる。これは金融に過度に依存する体質のイギリスにとっては、かなりなリスク要因だ。

イギリスのEUからの離脱にはそれなりの事情が働いたと思うが、そうした事情には別の対処法もあったはずで、今回のHard Brexitは必ずしも、ベターな対応策とは言えないのではないか。

テレサ・メイは、EUとの離婚のショックを、アメリカとの仲を深めることで乗り切ろうとしているようだが、そううまく事が運ぶかどうか。少なくとも離婚が正式に成立するまでは、他の国と結婚することは許さないと、いまの規定ではなっている。正式に離婚できるのは二年先のことだ。






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