習近平政権が日中戦争史を書き換え

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習近平政権が、歴史教科書における日中戦争史の記述を書き換える動きを始めたそうだ。これまでは、日中戦争の開始は1937年の盧溝橋事件とされ、それから終戦までの八年間を日中戦争とし、これを抗日戦あるいは八年戦争と呼んできた。それを変えて、1931年の満州事変を日中戦争の開始とし、この戦争を十四年戦争と呼ぶべく、歴史教科書の現場に指示したというのである。

このニュースを読んだ筆者は、ちょっと奇異な感に囚われた。日中戦争の開始を1931年の満州事変に置くことは、日本でも常識のようになっていて、いまさらそれを強調することもないだろうと思ったからだ。ところが中国ではこれまで、日中戦争の開始を1937年の盧溝橋事件とし、それ以前における日本軍との戦争はほとんど無視してきた。その理由はどうやら、1837年以前には、中国共産党の勢力が、日中戦争についてはほとんどかかわっていなかったということにあるようだ。1931年以降37年まで、日本軍と戦ったのは蒋介石の国民党政権であって、共産党は全くかかわっていなかった。そんなこともあって、1937年以前における対日戦争を強調しすぎると、国民党を盛り上げる一方、共産党の影を薄くすることにつながり、ひいては現体制に悪影響が及ぶのを恐れたからではないか、そんなふうに思わされるところがある。

それがいまになって、1937年以前の対日戦争についても強調するようになったのは、日中関係の変化を反映しているのだろう。習近平政権は、日本側の対中姿勢の変化に対応して、日本に対して厳しく出ようという姿勢を強めているようだ。中国と日本とは、中国共産党が表舞台に立つ以前から深刻な敵対関係にあった。いわば先験的宿敵同士なのだということを国民に向かって強調したいというのが、習近平政権の新たな目論見なのかもしれない。

筆者は新しい中国歴史教科者の現物を見たわけではないが、聞くところによると、日本軍の残虐性をことさらに強調するものになっているらしい。かつて20世紀の末に反日教育が強化され、その効果を物語るような動きが21世紀の初期に反日暴動という形であらわれた。これと同じようなことが、今後の中国で起らないとも限らない。憂慮すべきことである。

もっとも日本人も、中国側のこの動きを一方的に批判してもいられぬだろう。安倍政権になって、日本でも歴史教科書の書き換えが進んだ。日中戦争については、日本軍による侵略や残虐行為などを、否定はしないまでも、曖昧に記述する例が目立ち始めた。要するに、日中双方で、歴史教育への政治的な介入が進んでいるということだ。こうした介入が両国民の相手国イメージを悪化させ、将来に禍根を残すようでは、歴史教育というよりは、国民の洗脳というべきであろう。両国の健全な関係を築く上でも、憂慮すべきである。

(参考)China rewrites history books to extend Sino-Japanese war by six years By Sian Cain : Guardian






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