現金に手を出すな(Touchez pas au grisbi):ジャック・ベッケル

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「現金に手を出すな(Touchez pas au grisbi)」は、初老のジャン・ギャバンをフィーチャーしたギャング映画である。もしギャバンが出ていなかったら、ただのB級映画だったろう。ギャング映画にしては迫力に欠けるし、筋の展開も冗漫だ。ギャバンが出ていることで、ピリッとしまり、見るに耐える映画になっている。こういう俳優は実に奇特なものだ。日本でもかつては片岡千恵蔵のような名優がいて、それが出ているだけで、どんな映画でも見せる映画になったものだ。

ギャング映画といっても、これから犯罪行為に果敢に取り掛かろうというところを描いているわけではない。強盗を働いて巨額の金塊を手に入れたギャングたちが、それを横取りしようとする悪党から獲物を守ろうとするような筋書きである。いわばギャングの自衛行動を描いているわけだが、その自衛の動機と言うのが、もう年だからここらあたりで引退したい、ついては最後の獲物である金塊を大事にしたいというケチな考えなのだ。獲物は金塊であって、現金ではない。日本語の題名には落ち度がある(grisbi自体は隠匿物という意味)。

ジャン・ギャバンは、年にかかわらず女にもてる。どんな女でもギャバンの前ではしびれてしまう。そんなギャバンだから、男にも人気がある。とくに相棒とは20年以来深い友情で結ばれている。その男の存在がつまずきの石となって、ギャバンは折角手にした金塊を失ってしまうのだが、それでもギャバンは金塊よりも友情のほうが大事だという表情をする。そこがフランス人には粋に見えたのだろう。この映画は、フランスの映画史上もっとも愛された映画のひとつなのである。

リノ・ヴァンチュラ演じる悪党が、ギャバンの相棒の女から金塊のことを聞きつける。そこで金塊を奪いにかかるのだが、悪党のことだから、あらゆる卑劣な手段に訴える。最後には相棒を誘拐して、それと引き換えに金塊を持って来いと言ってくる。相棒の命を救うためにギャバンは指定された場所に金塊を持ってゆく。そこでフランス流の立ち回りが展開し、ギャバンは仲間二人の命と引き換えに、ヴァンチュラたちを退治したはよかったが、肝心の金塊まで失ってしまう。打ち合いにまぎれて車が炎上した際に、車ごと金塊も燃えて、とけてしまうのだ。

相棒の女をジャンヌ・モローが演じている。この頃は駆け出しだったようで、まだ初々しい感じが残っている。彼女は尻軽で軽率な女ということになっており、悪党に抱かれたついでに金塊のことをしゃべったことで、ギャバンたちを苦境に陥れるのである。

音楽もなかなかよい、ギャング映画にマッチした、ジャズタッチのクールな音が流れる。その音に乗って、ギャバンが粋な動きをするというわけである。

B旧映画には違いないが、ギャバンが出ているおかげで、楽しめる映画になっている。







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