マリアを拝す(Ia Orana Maria):ゴーギャン、タヒチの夢

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ゴーギャンは、タヒチの原地人(マオリ族)の宗教感情について、彼らがヨーロッパ人とは違うものを持っていることに気付いたが、それをイメージであらわす際には、ヨーロッパ的な表現を採用した。この「マリアを拝す(Ia Orana Maria)」と題した絵は、その典型的なものだ。

一見してすぐわかるように、これはヨーロッパの宗教画の伝統的なテーマである「東方三博士の礼拝」のタヒチ的な表現である。マリアが生まれたばかりのキリストを、肩の上に抱き、それを一人の翼を持った女と二人の半裸の女(あわせて三人の女)が礼拝している。

モンフレー宛の手紙の中でゴーギャンは、この絵について次のように書いている。「黄色い翼の天使が二人のタヒチ女性と、これもまたタヒチ人のマリアとイエスを指し示している・・・マリアはパーレウ、すなわち腰のあたりで好きなように結ぶ花柄の綿布をまとっている。背景の山はとても暗く、樹木は花をつけている。道は濃い菫色で、一番手前はエメラルド・グリーンだ。左にはバナナが置かれている。かなり満足できる出来栄えだ」(高階秀爾監修)

ゴーギャンにしては、構図がかなり込み入っている。本人がそれに満足している様子が伝わってくるので、この複雑な構図の中に、タヒチ的な宗教性をもれなく盛り込んだつもりなのかもしれない。画面の下にある文字は、「アヴェ・マリア」をマオリ語で表した言葉だ。

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これは、マリアとキリストと女たちの部分を拡大したもの。マリアとキリストの図上には金色の光輪が差している。いつかゴーギャンが自画像の中で自分の頭の上に描いたのと同じ光輪だろう。

左端に、黄色い翼をつけた天使が描かれているが、手前の植物の陰に隠れてよくわからない。マリアを拝む女たちの表情も、マリアの表情もみな厳かだ。(カンヴァスに油彩 113.7×87.6cm ニューヨーク メトロポリタン美術館)






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