トランプ時代の中国

| コメント(0)
トランプが登場して、アメリカのエスタブリッシュメントと世界秩序への挑戦を叫ぶようになって、世界に大きな衝撃が走っている。従来の同盟国を含めてどの国にもマイナスの影響が予想されるなかで、最も大きな影響を蒙るのは中国だと思われる。その影響は経済と政治の両面に及び、場合によっては新たな冷戦の始まりを予想させるような厳しいものになる可能性がある。

トランプが反グローバリズムの内実として、多国間の経済協定から二国間のそれへと舵を切るとともに、保護貿易主義的な政策を推進するだろうことは大いにありうることだ。これにブレグジットの影響やヨーロッパでの反グローバリズムの動きが加わると、保護貿易主義が世界の潮流になりかねない。その影響を最も強くマイナスの方向で受けるのが中国だ。中国程グローバリズムの恩恵を受けて来た国はない。貿易と資本の自由化の流れの中で、中国は輸出を伸ばしつつ、海外資本を呼び込むことで、すさまじいほどの経済成長を続けてきた。保護貿易主義が強まると、この流れがストップし、中国経済は大きなダメージを受けるだろう。中国は、トランプからの(高関税などの)経済攻勢に対して、自分も報復することで、トランプを懲らしめてやると息巻いているが、より強いダメージを受けるのは自分だと理解すべきだろう。

政治的な影響にはもっと深刻なものがある。アメリカはこれまで中国を公然と敵視する政策はとってこなかった。息子のブッシュ以来、アメリカの矛先が中東に向かっていたからだ。アメリカのような大国でも、同時に二つの戦線を抱えることには無理がある。そこで、中国が南シナ海で挑発的な行為を繰り返しても、深刻な事態に発展することはなかった。中国がこうした挑発をやめなかったのは、アメリカの懐具合を見透かしていたためだ。

ところが、トランプは中国への敵対心を隠さない。中国に軍事的に出し抜かれることを許さないと考えているフシがある。トランプの上級アドバイザーであるバノンは、五年乃至十年以内に米中軍事衝突が起こるだろうと公言しているが、これはどうもイデオロギー的な信念のようだから、それをトランプが共有するようになると、中国との対立は、冷戦どころか21世紀の十字軍的軍事衝突に発展しかねない。非常にきな臭い空気がただよっているわけである。

それでもトランプがイラン制裁など中東対策に力を入れるようになれば、その間はアメリカの軍事力が中国を狙い撃ちする事態は避けられそうだ。だから中国としては、トランプの関心がなるべく中東に集中するのを祈るほか、余りアメリカを刺激するようなことは慎んだ方が身のためだろう。というのも、もし米中正面衝突となったら、中国には勝ち目がないと思われるからだ。中国は、軍事技術の上でも、総合的な軍事力のうえでも、まだまだアメリカに及ばないし、現代戦を遂行するうえでの総合力、それは国の力ということだが、それについてもアメリカにはるかに及ばない。アメリカは食料やエネルギーを十分に自己調達できるのに対して、中国にはできない。アメリカによる全面的な経済封鎖を食らったら、かつての日本の二の舞を踏むことになるだろう。

というわけで、トランプがアメリカの大統領でいる限り、中国では悪夢のような日が続くだろう。悪夢を普通の夢に変えるには、アメリカとの関係を抜本的に立て直す必要があるだろう。まさか日本のように卑屈になることはなかろうが、アメリカと対等のつもりでいることは通らないだろう。






コメントする

アーカイブ