長谷寺:奈良・大和路を歩く

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(長谷寺登廊)

三月十五日(水)陰。ホテル二階食堂にて朝餉をなし、村上春樹の小説「騎士団長殺し」の下巻を幾ページか読み進みし後、九時近くにホテルを出でてJR奈良駅より電車に乗り、長谷寺駅に至る。そこより石段の道を下り、小さな橋を渡り、参道沿ひの様子を眺めつつ長谷寺に向かふ。長谷寺は太古より観音信仰の拠点として多くの参拝者を集めしなれば、参道沿ひには今も多くの旅館やら土産屋が並びをるなり。上田秋成の小説「蛇性の淫」にも長谷寺参道の土産屋登場せり。秋成の小説には、この参道は人の往来繁き所として描かれてあり。その一角なる土産屋に、蛇の化身少女を伴ひて現はるるなり。その土産屋、もしいまもあらば奈辺ならんと思ひつつ歩みたり。

二十分ほどして長谷寺に至る。本堂は山の中腹に立ちたり。巨大な仁王門を潜れば、石段に回廊状の工夫を施せる登廊あり。それを上りて本道に参るなり。大晦日の夜にはこの登廊の両列に燈下ともされ幽玄の境地を現出すといふ。

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(長谷寺舞台)

本堂は国宝なり。清水寺同様断崖に面し、そこに舞台を懸けてあり。その舞台に臨むやうにして本尊の十一面観音立ちたり。三尺三丈の巨躯にて、楠材を以て彫られし由。鎌倉の長谷寺なる十一面観音の本尊なるべし。鎌倉に限らず、全国の観音信仰の根本仏と称せらるる由なり。なほ、この本尊は東を向いて立ちたれど、反対側の西側には、これを一回り小さくせる仏立ちたり。

その西側の石段を降りつつ途中見上ぐるに五重塔の先端木々の合間よりこぼれ見えたり。近づいて見物せんとせしが、これは昭和に建てられたものとあるを知りてやり過ごしたり。

駅に向かひて戻る道すがら、奇異な集団に出会ひたり。撮影機やら録音機をかざしたるものら二人の男をとりかこみつつ移動するなり。見れば二人は互いになにやら言葉のやりとりをなしをるやうなり。聞くともなく聞くに、長谷寺参詣の功徳のやうなることをしゃべり散らすなり。長谷寺にはまだ距離がありますが、長谷寺のご利益によってその気配を早くも感じます、といふやうな具合なり。どうやら芸人の類がテレビかラヂオのために番組を収録しをるやうなり。二人の男は大声をあげつつさかんに長谷寺の功徳を語りをりたり。二十一世紀のいまも長谷寺の功徳人々の心をとらへをるが如し。

長谷寺の次は当麻寺に向かふ。長谷寺駅より近鉄電車に乗り、大和八木、橿原神宮前にて乗り換へ、午頃当麻寺駅に至る。





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