(当麻寺本堂、金堂)
當麻寺は近鉄駅を出て十数分ほどのところにあり。あたかも正午なれば門前のうどん屋に入り、ビールとうどんと柿の葉寿司を注文せり。柿の葉寿司とは、さばの押し寿司を柿の葉に包みたるものなり。過日奈良駅にて買い求めし柿の葉寿司には、さばのほかにもいろいろとありしが、昔ながらの柿の葉寿司はさばを主体にするものといふ。柿の葉寿司といへば吉野がそもそもの発祥にて、吉野といへば鮎が思ひ浮かぶなれど、なぜか鮎にはあらずして、海の幸なるさばを用ゐる由なり。
まづ本堂に上がる。別名を曼荼羅堂といふ。曼荼羅図を本尊となすゆゑなり。中将姫が蓮の葉にて織りし布に極楽浄土の様子を描き染めしものにて、一片四メートルの巨大な図柄なり。ただ本物にはあらず。模写なり。本物は秘宝として公開されざる由。
この曼荼羅図は先年の奈良旅行の折にも見たることあり。その折にもいたく感心して、その感動を歌に詠みたり、いはく、
曼陀羅は人を圧して大なりき中将姫の愁ひもかくや
早乙女の涙に織れる蓮糸や仏の慈悲の蓮華とぞなる
この歌を詠みしは廿五年も前のことにて、記憶の詳細は薄れたれど、感動の実質はいまだに忘れざるなり。
若い僧に案内されて講堂と金堂に入る。講堂には阿弥陀如来坐像を中心に諸仏の像建ち並び、金堂には弥勒如来坐像を中心にして四天王像前後左右に並び立ちたり。また不動明王像もあり。これらの堂は大きな窓を設けず、闇中かすかな光を受けて像が浮かび上がるやうに見ゆるなり。
(当麻寺奥ノ院浄土庭園)
ついで奥の院を訪ね、浄土式の庭園を見る。阿弥陀如来像を中心にして、西方極楽浄土の様子を地上に再現せしものといふ。この庭園より二重の塔を望むことを得る。ただ西塔は目下修復中にて、工事用の養生施されてあり。この両塔についても先年詠みし歌あり。
門を出でてふりかへり見れば二上の深き碧に塔とけこめり
塔の見ゆる當間の寺は二上のふもとにありていにしへしのばゆ
また宝物殿には曼荼羅図の模写掲示せられてあり。本堂内のものとほぼ同じの由にて、こちらは画面を詳しく見得るなり。阿弥陀如来を中心にして、諸仏やら菩薩の群像こと詳しく描き分けられてあり。
(当麻寺中の坊庭園香藕園)
奥の院のほかに、中の坊にも庭園あり。これは香藕園といひて、桃山時代の池泉回遊式庭園なり。その一角より、水面に映りたる東塔を望むことを得るなり。そのほかにもなかなか見所多き庭園なり。
四時頃ホテルに戻り、地下の大風呂に入ること昨日の如し。その後しばし転寝をなし、夕刻外へ出で、三条通のさる旗亭にて一酌せり。その後駅前のコンビニにて氷とソーダ水を買ひ求め、ホテルの一室にてウィスキーを舐めること昨夜の如し。
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