イギリスのメイ政権が敗北した意味

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イギリスで総選挙が行われ、事前の予測に反して、メイ首相率いる保守党が敗退した。敗退というのは、これまで単独で過半数を占めていたものが、過半数を割り込んだという意味だ。メイ首相が、単独過半数という財産を犠牲にしてまで、まだ三年も任期を残している下院を解散した理由は、自分自身選挙の洗礼を受けておらず、その点で正統性に疑問を投げられていることについて、選挙で過半数を取ることで、その正統性を得たいという思惑があったからであり、また、その選挙に勝つ自信があったということだった。ところが、そうした見込みに反して、メイ首相の保守党は過半数を割ることとなり、彼女の政権基盤は一層不安定になった。そのことで、彼女はわざわざやらなくてもすんだことをやって、自分の墓穴を掘ったとあざけられる始末だ。

事前の選挙予想では、メイ首相率いる保守党の勝利を予想する者がほとんどだった。中には保守党の地滑り的勝利を予想したものもある。ところが、それとは全く反対の結果が出たことについて、さまざまな憶測が流れている。ブレグジットの場合と同様、マスメディアを始めとした調査予測機関の見込み違いをあげつらう論調が多いようだが、よくよく考えて見れば、この選挙結果には、それなりに必然的な因果関係が働いていたといえる。その因果関係は、トランプの登場やブレグジットの勝利のそれと共通するものだ。

トランプの登場やブレグジットの勝利をもたらしたものは、グローバリゼーションへの嫌悪感だったといえる。グローバリゼーションの進行によって、各国のデモクラシーが制限を受け、そのことを通じて、グローバル企業を始めとした企業や資本家たちに富が集中する一方、各国の労働者を始めとした、いわゆる「弱者」にしわ寄せが及んだ。その結果、先進資本主義諸国では、格差が拡大した。そうした傾向に嫌悪感を抱いた人々が、グローバリゼーションに待ったをかける意味で、トランプの登場やブレグジットの勝利をもたらしたのだといえる。

だから、イギリスの有権者の多くがメイ首相に期待したのは、グローバリゼーションの動きに歯止めをかけ、そのことを通じて格差の解消に道筋をつけることだったといえる。ところが、メイ首相は、グローバリゼーションへの嫌悪をナショナリズムへと誘導する一方で、格差の解消にはまったく手を振れないできた。それどころか、社会保障を大幅にカットすることで、格差を一層拡大させるような政策をぶち上げた。そのことにイギリスの有権者の多くは、裏切られたと感じたのではないか。

同じことは、まだ前景化してはいないが、トランプのアメリカにもいえる。トランプ政権は、相次ぐスキャンダルで、政策をじっくり実行できる体制にはなっていないが、最近になって明らかになってきたことは、社会保障への敵対的スタンスだ。トランプは、アメリカの白人労働者層を味方につけたことで権力を握ったわけだが、その自分の権力基盤をなす層に対して敵対的な姿勢を取りつつある。そうした姿勢が有権者の目にはっきりと映るようになれば、トランプを支持した多くの有権者も、メイ政権へノーをつきつけたイギリスの有権者同様に、トランプに対してノーを突きつけるようになるだろう。






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