叫び:ムンクの不安

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ムンクといえば条件反射的に「叫び」が思い浮かぶほど、この絵はムンクの絵の中でももっともインパクトの強い作品だ。精神世界を表現することを最大のコンセプトとしたムンクにとって、人間の叫びはもっとも精神性を感じさせる事柄だったのだろう。この絵の中の人物の表情を見ていると、叫び声を通じて彼の内面がそのままむき出しにされているように感じられる。

真赤に染まった夕空を背景に、恐らくは湖に架けられた橋の上を、三人の人物が渡っている。手前に描かれている人物は、恐怖におびえた表情をし、両手で耳を押さえている。この仕草は何を物語っているのだろうと、見るものを思わず考えさせるポーズだ。

この恐怖におびえた人物の表情があまりにも強烈なので、見るものの目はそこに釘付けになってしまうのだが、この恐怖を中核とした精神性を、画面全体の色彩感がさらに強調している。赤く彩られた空や、湖の水面のうねるような色彩の流動が、画面に独特の動きをもたらし、それが精神の爆発と呼応しあっているように見える。

構図的には、橋と三人の人物の描き方が、ムンクなりの遠近法を表現している。その遠近法の布置の中で、手前の人物は観客のほうへ飛び出してくるように見え、背後の二人は距離を隔ててこちら側に歩いてくる。

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これは、上の絵の二年後に作られたリトグラフ。色が不在な部分は線によって補強されているが、その線の引き方は、躍動感を出す為に、ダイナミックだ。手前の人物の表情も、色が不在な分、線によって強調されている。人物の顔が骸骨のように見えるのは、線の組み合わせ方がしからしめるのだろう。

なお、先行作品では、この絵の中でこちら側を向いている二人の人物が、背中を向けているように描かれている。

(1893年 ボードにテンペラとパステル 91×73.5cm オスロ国立美術館)

・ 壺齋散人の美術批評 





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