
蓮池観音とは、観音の異名の一つではなく、観音が蓮の池に臨んでいる様子をあらわした言葉だろう。この絵は、白隠としては珍しい横幅の画面に、岩絵の具を用いて丁寧に描かれている。
池に大小さまざまな色合いの蓮の花や葉が浮かび、それを岸辺にいる観音が伏目がちに眺めている。蓮の花にはまだ蕾のものもあれば、開いているものもある。一方葉っぱのほうは横に大きく伸び広がっている。面白いのは、花と葉の間につながりが無いことだ。てんで勝手に水面に浮いているといった風情だ。
賛には「誰道度生願海深、人縁絶処来偸閑(誰か道ふ度生の願海深しと、人縁絶する処来って閑を偸む)」とある。「誰が言ったのだ、観音が衆生を救う気持は海のように深いとは、このように人里離れたところでのんびりとしているではないか」という意味。つまり観音を揶揄しているわけだ。白隠の賛にはこのように、仏を茶化したものが多い。

これは観音の部分を拡大したもの。右手を乗せている台には、法華経と思われる巻物が置かれている。
(絹本彩色 49.3×99.4cm 個人蔵)
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