ポツダム:独逸四方山紀行

| コメント(0)
d0501.jpg
(ポツダム、サンスーシー宮殿)

六月廿一日(水)晴。昨日同様浦子の用意せる朝餉を食ふ。この日は日本より持参せしといふ即席味噌汁を添へたり。食事中何者か玄関の呼び鈴を押すものあり。谷子が応接するに、学生らしき女挨拶をなし室内に侵入す。何ごとかと思へば、自分は建築技師にて、この建物の設計図の復元作業をなしをれば、部屋の間取り等につき情報を寄せられよといふ由。谷子の解説によれば、ベルリンには戦後所有者の不明となりし建物にして老朽の進みたるものを調査し今後の利用方針を決定せんとする動きある由。さればこの調査もその一環なるべし、と。

この日、谷子は地元に住むドイツ人知人と面会する由なれば、他の三人は谷子とは別行動をなし、近郊の都市ポツダムを訪問せんとす。九時頃四人してアパルトメントを出で、ゾーネフェルダープラッツより地下鉄に乗る。車中盲導犬を見る。目つきは鋭さを感ぜしむるも、挙動は温順なり。また、犬のかはりに自転車を車内に持ち込む者あり。車内結構混雑しをれど、一向悪びれる様子なし。ドイツ人は自転車好きと聞きをれど、満員電車の中まで自転車を持ち込むとは、これ如何。日本にては考へられぬことなり。

アレクサンダープラッツ駅にて谷子と別れ、ポツダム行きのSバーンなる郊外電車に乗る(Sバーンとは快速列車の意なる由)。幸に二駅を過ぎたるところにて座席に着くを得る。その一人当たりの幅日本のそれより広し。岩子言ふ、これは独逸女の尻の幅にあはせたるなりと。思ふに、ドイツ人は男女とも体格よし。女といへども、その体格男に劣らず。余の如きは、彼女らの傍らに立てば稚児に見ゆるほどなり。しかしてドイツ女の体格の特徴は、臀部の巨大なるにあり。この臀部を以てしては、日本の電車の座席一人分にては到底足らざるべし。しかれば岩子の言ふことにも一理あり。余もまた思へらく、ドイツにては、女の尻の幅を以て座席の標準となせるが如し、と。

シャルロッテンブルグを過ぎるや、列車は森林地帯を行きぬ。ベルリン市域の緑地の豊かさを感ぜしむ。谷子によれば、ベルリン市の市域面積は七百平方キロメートルを擁し、東京よりも広大なりといふ。その大部分を緑地が占めをるやうなり。

d0502.jpg

十時過ポツダムに至る。駅前より歩みてサンスーシー公園を目指す。最初の目標はブランデンブルク門なり。ポツダム駅北側より西に向かって進み、写真博物館の前を過ぎりて、やがて左手に湖の見えるところに大きな交差点あり。それを右してやや歩けばやがてブランデンブルグ門なり。この門は十八世紀の後半に七年戦争の勝利を記念して建てられたるものにて、ベルリンの同名の門より古しといふ。

d0503.jpg

ブランデンブルグ門を潜るに一條の通りあり。両側に洒落た構への店櫛比してあり。また通りの突き当りには古風なチャペルを臨む。その眺望は、あたかもローマのファッション通りを思はしめたり。途中小さな路地あり。そこに立ち入るに一の果物店ありて、色とりどりの果物を並べてあり。余その棚よりイチゴのうまさうなるものを買ひ求め、目抜き通りのベンチに腰掛けて浦・岩両子とともに食ふに、いささかの酸味ありてすこぶる美味なり。

突き当たりのチャペルの前を左し、道なりに行く。サンスーシーに近づく気配一向になし。ガイドブックには、駅より歩むこと二十分ほどにて到着すべしとあるに、一時間ほど歩みてもその気配なし。そのうち森林の中を迷ひ、方向を見失ひたり。このままにては埒あくべからずと、些か不安を感じたれど、周囲に人の気配もなく、ほとほと困惑したるところ、一夫人の犬を連れて散策するものを見たれば、この夫人に方向を問ひて、やうやく苦境を脱することを得たり。

d0504.jpg

サンスーシー宮殿には午後一時近くに到着す。入場切符を買ひ求めんとするに、入場制限実施せられてあり、余らは二時間後に入場を許さるべしといふなれば、入らずしてやむ。

付近の停留所よりバスに乗りてポツダム駅に戻る。途中ブランデンブルグ門の前を通過す。それを見るに、我々の先ほど通りし道は、サンスーシー宮殿とは正反対の方向に向かひて伸びたり。これを以て自覚す、余らは目標物に接近するつもりにして、実は遠ざかりゐたるなりと。

そはともかく、ポツダムの町にても、落書を施されたる建物を多く見たり。これを以て思ふに、ドイツ人の落書好きは聊か度を越したりといふべし。彼らは、平面を見ては落書する誘惑に勝てざるが如し。すなはち、建物にはペンキを以て落書をなし、人肌には刺青もて落書をなす、と。

ポツダム駅構内のベトナム風ブフェにて昼餉をなす。余はチキンカレーとライス(岡穂種なり)を主体に、淡白なる料理を選びて食ひぬ。生ビールを飲みしことはいふまでもなし。食ひ終はりて店を出でんとするに、あなたはヤーパンか、と店主より呼びかけらる。ヤーと答ふるに、店主なほ話しかけんとする様子を見せたれど、先を急ぎたれば失敬して去る。

d0505.jpg

午後一時五十分発のベルリン行列車に乗り、往路と同じ経路を復して、午後三時頃ゾーネフェルダープラッツ駅に戻る。しかして先日のカフェにて茶を喫し、三時半過ぎアパルトメントに入る。






コメントする

アーカイブ