
ムンクの友人の一人にポーランド人スタニスラフ・プシビシェフスキがいた。彼の妻ダグニーは性的な魅力に富んだ女で、ムンクも惚れていたようだ。彼女はまた、ストリンドベルヒほか数人の男を誘惑しているという噂もあった。彼女は最後には夫の友人によって殺されてしまうのだが、それは彼女の夫に対する裏切りが原因だったと推測されている。
この絵は、そんなダグニーの夫への裏切りと、それに対する夫の怒りというか、嫉妬の感情をモチーフにしたものだ。男と逢引きをする妻と、それを草陰で見ながら嫉妬の炎を燃やす夫。ムンクがなぜこんなことを絵のモチーフにしたのか。よくはわからない。友人であるプシビシェフスキへの同情からか、自分も惚れていたダグニーへのムンク自身の嫉妬からか。
ダグニーと逢引きしているのは、ヤッペ・ニルセンだとされている。そのニルセンの顔も、ダグニーの顔も、欲情から赤くなっている。一方夫のプシビシェフスキの顔は、怒りで青ざめている。裸体を男の前にさらしている妻の姿を見たら、どんな男でも怒りで青ざめるだろう。ちくしょう、ふざけやがって、と言いたくなるところだ。

プシビシェフスキの顔は、ムンクがマラルメのために制作したリトグラフの肖像画に良く似ていることが指摘されている。これはそのリトグラフだが、厳しい目つきといい、髭の様子といい、両者は良く似ている。
(1895年 カンヴァスに油彩 66.8×100cm ベルゲン ラスムス・メイエル・コレクション)
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