ドイツ風温泉につかる:独逸四方山紀行

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(クーアヘッセンテルメ正面)

昼餉をすませばすでに午後四時過なり。些かの疲労感と激論の余韻のために、谷ら三子はこれ以上歩き回る元気を失ひたるが如く、これよりホテルに戻りてしばし休息せんといふことに決す。すなはちトラムに乗りて駅前に至り、ホテルにてチェックインをなし、各々用意されたる個室に収まる。六時に外出せんと約し、それぞれ思ひ思ひに過ごせしところ、余は下着などの汚れ物を洗濯す。また一日の日記を整理す。

今宵はドイツ風温泉に浸からんとかねて予定せり。温泉はクーアヘッセンテルメといひて、ヴィルヘルムスホーエ城の麓にあり。すなはち午後六時頃、トラムに乗りてヴィルヘルムスホーエ駅に至り、城を一見して後温泉に浸からんと欲す。谷子が言ふに、この温泉はドイツ中より病気治療を兼ねて来訪する者多し。とりわけサウナは人気を集め、老若男女全裸になりて熱気に浴するなりといふ。先年谷子がこの温泉を訪れし折には、サウナにて全裸のドイツ女たちに囲まれ、彼女らの割目を拝まされたるさうなり。

たまたま出会ひし一老人に案内せられて、ウィルヘルムスホーエ城の周辺を散策。池水式庭園やら丘の上に立てる城やらを見物して後、クーアヘッセンテルメに赴きて温泉につかる。脱衣場にて全裸になりしドイツ男の陽物を見る。その長大たるや、馬の一物を想起せしむ。余、以て己の至らざるを恥じたり。

家より持参せし水着を穿いて温泉につかる。日本の温泉の如く熱からず。ほぼ人肌と同じ温度なり。舐むるに塩辛き味せり。多くの岩塩成分を含めるやうなり。その湯を湛へたるところは、あたかもプールの如き形状にて、温泉に浸かるといふよりは、温水プールに遊ぶ趣なり。余はおとなしく湯に浸かりをりしが、他の三子は遊泳して大いに騒ぎたり。そのさま学童を見るが如し

半時間ほども浸かりたるならん。余は俄に気分の悪くなるを感ず。血圧不調のやうなり。大事をとって湯から上がり、着替をなして他の三子の上がるを待つ。ややして彼らも上がる。しかして余に向って曰く、汝の姿を求めて施設中を探し歩けり、サウナを捜索せる折は、汝の名を連呼して(盗み見との)誤解を解かんとせり、と。余三子に勝手な行動を謝し、更に彼らに訊ねていへらく、割目は見えたりやと。三子口を揃へて答へて曰く、割目は見えざりしが、毛は見えたり、と。余思はず失笑せり。

九時過、トラムに乗りホテルに戻る。フロントにて料理屋の美味なるものの所在を聞き、タクシーに乗りて赴く。先ほどトラムに乗り込みたる停留所の近くなり。生ビールのほか肉料理三皿(ビーフステーキ、ポークカツレツ、チキンソテー)を注文。その量尋常ならず、またほどほどにうまし。

給仕女愛嬌よし。名をペルザといふ由。ギリシャ女なり。円熟せる女の色気を感ぜしむ。谷子などは悩殺せられたるやうなり。女を身近に引き寄せ、互ひに肌を触れ合はんとす。その谷子に向かって余「タニ、タニ」と呼びかけたるところ、隣席のドイツ人一行ニヤニヤと笑へり。余谷子に問ふ、「タニ」といふ言葉には、ドイツ語として何か特別の意味隠れたりやと。谷子知らずと答ふ。

タクシーを雇ひて宿に戻ればまたもや十二時過なり。浦子の部屋に集まりて先日ベルリンにて買ひ求めし赤ワインを飲む。コルシカ産なり。酸味強し。






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