埋葬文化博物館:独逸四方山紀行

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(埋葬文化博物館内部の霊柩馬車)

埋葬文化博物館はグリム・ヴェルトの近隣にあり。ドイツの埋葬文化について紹介・展示す。埋葬は、宗教儀式の一部として人間集団の基本的な文化現象なれば、それを通じて当該民族の深層心理を理解することを得るなり。しかして埋葬には多様の形態あり。ドイツ民族の場合には、キリスト教文化の一員として、土葬を基本にして、一部火葬も行ひをるやうなり。

上の写真は、埋葬用霊柩馬車を写せしものなり。この種のものとしては、最も普通に見らるるものの如し。ベルイマンの映画「野いちご」の冒頭に、霊柩馬車より棺のころがり落ちるシーンありしが、その馬車の構造は、まさしくこの馬車と同様なりき。死者は棺に納められた後この馬車に乗せられ、己を収むるべき墓地へと向かふなり。

日本の霊柩車は、棺と遺族とを同乗せしむれど、この馬車には遺族は乗らず。遺族は馬車の後より従ふものの如し。

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ドイツ人には、ほんの一部とはいふものの、火葬を行ふものありといふ。火葬の技術的詳細についての説明はあらざれど、日本のそれと大差なきものならん。骨壷の大きさも、大して変りなし。直径七尺ほどなるべし。ただ深さは日本のそれよりもやや大とす。骨量の差を反映せるものなるべし。一部とはいへ、ドイツ人が火葬を選択する背景には、如何なる思想がしのびをるや、興味深きところなり。

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これは夫婦の情愛を記念して、生前の面影を像に作りたるものなり。遺体そのものは墓の底に並び埋められ、彼らの面影は遺族の目に触るるところに置かるるなり。

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これは顔の部分を像になしたるものにて、いはゆるデスマスクの延長といふべきものなり。

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ドイツ人を含めヨーロッパ人種には、人間の骸骨を恐れざる文化あり。頭蓋骨の如きは装飾品としても珍重せらるるやうなり。しかも己の祖先の頭蓋骨を身辺に飾るものもありといふ。これはかかる装飾的頭蓋骨の一なるべし。骸骨の表面には、この骸骨の生前の情報についてつぶさに記されてあり。

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これは等身大の骸骨二体なり。踊れるやうに見ゆるは、いはゆる死の舞踏をイメージせるなり。中世のヨーロッパ人は、度重なるペスト禍に打ちのめされ、死を日常の出来事として実感せり。その実感の中より死の舞踏なる社会現象出来せるなり。人々は死の踊りを踊ることによって、死への恐怖を遁れんと欲したるなり。日本人は、死への恐怖を地獄のイメージもて捉へしが、ヨーロッパ人は骸骨の踊りもて立ち向かふべき災厄として捉へたり、といふべきか。

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これは磔刑に処せられしキリストの像なり。十字架より降ろされて地上に横たへられしさまを再現したるものにて、両手と両足には、大きな釘の穴穿たれてあり。ヨーロッパ人にとって死とは、なによりもまづ、キリストが全人類のために贖罪として引き受けたるものとして思念せらるるなり。

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この日の埋蔵文化博物館には、常設展示のほか、ドクメンタの作品も展示されてあり。男の裸体像を集めたるものはその一部なり。巨大な男根を誇示する男の映像十数点展示せらる。死をテーマとする博物館にして、生殖のシンボルを展示するとはいささか論評に耐へたり。余これを評していへらく、ペニス賛歌なり(Das ist "homage to Penis")と。傍らにゐたるドイツ夫人声を立てて笑ひぬ。







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