金魚(Goldfische):クリムトのエロス

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19世紀末のヨーロッパでは、ファム・ファタールのイメージと関連して、水中を女性の胎内に見立てたイメージが流行ったそうだ。クリムトのこの絵もその一例だと見られている。水中に浮かんだ女性たちのイメージが、胎内に孕まれたファム・ファタールのイメージを表しているということだろうか。

目をこらしてよく見ると、四人の女たちと一匹の金魚が見える。四人の女性のうち二人は後ろ向きで、手前の女性は大きな尻を観客に見せている。これら女性のポーズとか、金魚との組み合わせには、なにか隠れた意図があるのかと、詮索したくなろうというものだ。

この絵には、「私を批評する人達へ」という副題が付けられていたそうである。つまり、クリムトから同時代の批評家たちへのメッセージを、この絵の中に籠めているということだろう。そのメッセージは、手前の女の尻にもっともよく現れているらしい。尻を向けることで、自分に対する的外れな批評を拒絶すると言うわけだろう。

尻を向けた女性以外の三人が、あまり目立たなく描かれているのに対して、金魚や水中の藻のようなものは色鮮やかに描かれている。ところどころにまぶされた金箔が、絵に躍動感をかもし出している。

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これは尻を向けた女性と金魚の部分を拡大したもの。女性のポーズには、ルーベンスの「こごえるヴィーナス」の影響が見られる。金魚の目には、固い意志のようなものが感じられるが、それはクリムトの芸術家としての矜持を表現しているのだろうか。

(1902年 カンヴァスに油彩 181×67cm スイス ソロトゥルン美術館)






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