富士大名行列図:白隠の風景画

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白隠は、沼津の東海道に面した松蔭寺の住職をしていたから、そこからは富士が手に取るように見えた。そんな富士の姿を白隠は数多く描いている。これはそのうちの一枚。雄大な富士をバックに大名行列が通り過ぎるところを描いている。画面いっぱいに富士を描き、裾野に大名行列を描く。その行列は西へ向かって進んで行き、その先には川があり、川の近くにはそばだった岡も見える。

描かれた人物はあわせて164人に上る。なぜこんなにも多くの人物を、しかも細筆で丁寧に描いたのか。白隠はかねてから、大名行列に代表されるような虚礼に対して批判的だった。何も生み出さない虚礼のために莫大な費用がかかるが、それらは最終的には百姓の負担になる。だからそんなことはやめて、百姓の負担を減らすのが為政者の使命だ。白隠はそういう意見を持ち、かつその意見を書物の中で書いたりもした。その書物「辺鄙以知吾」は、そのために発禁になったくらいだ。

この絵の中の大名行列は、為政者の虚礼に対する白隠の批判の現われと言えそうである。

賛には「写得老胡真面目 杳寄自性堂上人 不信旧臘端午時 鞭起芻羊問木人」とある。「かねての課題であった老胡(達磨)の真面目を描くことができたので、依頼主の自性寺の和尚にお届けする、十二月の端午の節句に描いたこの絵がわからねば、藁の羊に鞭打って木の人形に問え」という意味だ。意味がいまひとつ不分明なのは、禅問答めいているせいだ。

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これは画面左下の部分を拡大したもの。川は富士川という。いまでもこれと同じような実景を見ることができるらしい。手前の行列の人々は明確に描かれているのに対して、川の中で船に乗る人や丘の中腹を歩く人々は、距離感に応じて輪郭が曖昧になっている。

(紙本墨画淡彩 57.0×132.7cm 大分県、自性寺蔵)






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