三粋人経世問答:2017年総選挙を語る

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無覚先生:今度の選挙はまたもや自民党の圧勝になりました。前回の総選挙及びその後の参院選に続き、安倍政権の自民党は三度続けての大勝利です。この勝利は安倍さん自身の予想を大きく超えていたのではないか。安倍さん自身は与党で過半数をとれば上出来だと言っており、それはかなり本音に近かったと思われますので、まさかここまで勝てるとは思っていなかったと思うのです。実際安倍政権の評判はそんなによいとは言えない。そういう状況のなかでこの勝利を得た。恐らく笑いがとまらないでしょう。この選挙は、安倍さんの党利党略だと批判されましたが、その党利党略がみごとに当たったということでしょうね。選挙は結果がすべてですから、党利でも党略でも勝てば官軍だ、安倍さんはそう思っているに違いない。しかし何故またここまで大きな勝利を収めることができたのか。メディアは野党の足並みの乱れにその理由を求めているようですが、果たしてそれだけか。皆さんはどう思いますか。

静女史:投票の内訳を新聞などで見ますと、自民党の候補がとった票は圧倒的だったとは言えません。野党側の票を足せば自民党候補より多い選挙区が多数あります。だから、もし野党が統一して候補を絞っていたら、自民党に勝てた選挙区がたくさんあります。数えたわけではありませんけれど、おそらく野党はかなりの選挙区で自民党を破ったと思います。実際、与野党対決型の選挙区で、野党が勝ったところは沢山あります。だから、今回の選挙は、野党が自民党を助けた結果になったと言えるのではないでしょうか。その点、希望の党を立ち上げた小池さんの役割は大きい。小池さんのおかげで民進党が分裂し、野党同士が足を引っ張りあう構図になった。それが自民党を利したことは間違いないと思います。

俄然坊居士:小池さんはストップ安倍を叫んでいたけれど、実際にはセーブ安倍の役割を果たしたということですな。自分自身が乗り出して野党を分裂させたわけだから、そのことで結果的に自民党を助けたと言われても反論できぬでしょう。やはり日本の野党が政治的に未熟だということでしょうな。

静女史:小池さんがどういうつもりで新党を立ちあげたのか、よくわからないところがあるけれど、結果として安倍政権を利したとあれば、やはり自民党の補完勢力と言われてもしょうがないでしょうね。

俄然坊居士:希望の党は小池さんというキャラクターだけをたよりにしていたわけだから、その肝心の小池さんが国民からそっぽを向かれたら成り立ちようがない。実際今回の選挙では、小池さんが立ち上げた政党はまったく評価されなかった。希望の党から当選した議員の大部分は民進党系の議員で、なにも希望の党にいなくても当選したと思われるような人たちだ。小池さんの人気を頼って初めて立候補した人たち、小池チルドレンと言われるような人たちはそれこそ枕を並べて討ち死にといった状態です。それはやはり小池さんのイメージが急に悪くなったことの余波を浴びた形でしょう。その点、あの「排除」発言が決定的だったのではないでしょうか。

無覚先生:たしかにあの発言の影響は大きかったですね。あのおかげで小池さんのイメージは一夜にしてひっくり返った。それまで清新なイメージで売っていたものが、「緑のたぬき」などと悪口を叩かれ、老獪で油断のならない政治家というようなマイナスのイメージが独り歩きした。こういう言葉は、非常にわかりやすいこともあって、伝播力はすさまじい。あっという間に国全体に広がって、どうしたって取り消すことができなくなる。それがピークに達したところで投票日を迎え、小池さんのマイナスイメージが希望の党を打ち砕いたということでしょう。とにかく、緑の狸などと言われるようになってはおしまいですよ。

静女史:あの言葉を始めて聞いたとき、何のことかよくわからなかったんですけど、「緑のたぬき」というインスタント食品があるんですってね。

俄然坊居士:インスタントの狸そばで、なかなか人気がある商品です。そういう人気商品だから、これまた人気者の小池さんと結びついたのでしょう。しかしいくら人気商品といっても、緑のたぬきではいただけませんな。それじゃまるで「狸ばあさん」といったイメージだ。

静女史:小池さんが狸ばあさんだったら、その相棒のなにがしさんは狐オヤジとでも言うんですかね。狐と狸が仲良くするとあまりいいことはないようね。

無覚先生:きつねとたぬきはともかく、希望の党が破れた理由はほかにもあるでしょう。政策だとか理念だとか。むしろその方が重要なのじゃないか。小池さんは安倍政権を批判しながら、その実考え方は安倍さんとあまり違わない。例えば原発のことでも、原発ゼロを言いながら再稼働は容認すると言う。それではどちらが本当なのかわかりにくい。憲法改正問題についても、小池さんは積極的だ。つまり本音の部分では安倍さんとほとんど違わないのではないか。それでは本当の意味での安倍政権への対抗軸にはならない、そう多くの有権者が思い始めたのではないか。それが、野党の分裂と相俟って、安倍政権の批判の受け皿としての有効な対抗軸となれなかった、と言うことではないでしょうか。それはともかく、安倍政権はこの憲法改正を始めて総選挙の公約として掲げた。その結果勝ったわけだから、今後本格的に憲法改正に取り組むでしょう。憲法改正は容易な課題ではないので、とにかく国民の支持を取り付けねばならない。その作業を本格的に進めるのではないか。安倍さんがはじめて政権を取った時には、憲法改正への国民のアレルギーはまだかなり強かった。それが近年では、しだいにアレルギーが弱くなってきて、少なくとも議論しようという雰囲気が高まってきた。その雰囲気を憲法改正賛成につなげるのも、あながち不可能なことではない。そんな自信を安倍政権は持つようになったのではないか。もしそうなら、国民教化に向けて様々な手を打ってくることが考えられる。

俄然坊居士:憲法改正へ向けての国民の機運はたしかに高まっていると思いますよ。それにはやはり国際情勢が強く働いている。北朝鮮の核問題があるし、尖閣をめぐる中国との対立がある、そこへもってきて国際的にナショナリズムが台頭しているという事情もある。要するに国際的なさまざまな条件が重なって、日本でナショナリズムが高揚する事態となっているし、そのナショナリズムが憲法改正の動きと結びついているということはあるでしょう。

静女史:安倍さんの憲法改正は、改正そのものが自己目的化しているみたいで、なにかしっくりしないんですが、憲法改正によって、具体的にはどのような変化が生まれるのでしょうか。あるいは安倍さんは、憲法を改正することで何を実現したいのでしょうか。

俄然坊居士:やはり九条を改正することで、最低限自衛隊を合憲の存在にしたいということでしょう。いまでも自衛隊は合憲の存在だと多くの憲法学者が認めているが、それはあくまでも法理解釈の上でのことにすぎない。明文上も合憲の存在にするためには、やはり憲法の条項を変える必要がある。それではじめて自衛隊は胸をはって外国と普通に戦争ができるようになるわけです。

静女史:あれ、それってたとえば中国との戦争のこと? でも今の時代に中国と戦争してどんないいことがあるのかしら。むしろ悪いことばかりではないのかしら?中国との戦争までいかないにして、たとえば北朝鮮と戦争することだって、日本にとってあまりいいこととは言えないと思うわ。安倍さんは憲法を改正しないでも、北朝鮮と場合によっては戦争してもよいと考えているみたいですけど、北朝鮮との戦争は多くの日本人が死ぬことを意味しています。なのにそのことを指摘する人は、安倍さんを含めてほとんどいない。戦争で国民が死ぬのは当たり前だから、そんなことでいちいち騒ぐのはくだらない、とでも思っているのでしょうか。私にはそれはとても恐ろしいことのように思えるんですけど。

俄然坊居士:北朝鮮と戦争することで、多くの国民が死ぬとは限らない。相応の反撃能力を整備して、国民が死なないように戦えばよいだけの話です。安倍政権もその心つもりはあると思いますよ。

無覚先生:議論がだいぶ脱線したようですね。そこでもう一度選挙の分析に話を戻しますが、小池さんに「排除」された人たちが立ち上げた「立憲民主党」がそこそこに健闘し、数はいまいちながら野党の第一党におさまった。このことをどう思いますか。

静女史:私は立憲民主党ができたことで、いわゆる純粋なりベラル政党ができたと思いますわ。これまでの民主党や民進党では、内部にあまりにも違った勢力が共存していてとてもわかりにくかった。それが小池さんとなにがしさんのおかげで、右派とリベラルとに分かれて、それぞれがわかりやすくなった。私としては、右派のほうは今後自民党に吸収されて、リベラルのほうが健全な野党として成長するのが望ましいと思います。小池さんにもしも政治的な業績があるとすれば、それは健全なリバラル政党の産婆役になったということじゃないかしら。

俄然坊居士:逆に言うと民進党から不純な分子を整理できたというわけだったのでしょうが、いかんせん小池新党がこのざまなので、その思惑は実を結ばなかったというわけですな。

無覚先生:ところで今回の選挙では、18歳以上の若い人たちが初めて選挙権を行使しました。彼らの投票傾向は、安倍政権に好意的だと指摘されています。安倍政権に対しては、我々老人の世代ほど批判的で、30歳未満の若い世代は好意的だとの分析が出ている。この傾向が何を意味するのか、どう思いますか。

俄然坊居士:やはりアベノミクスがうまく機能していることを反映しているのではないか。学生の就職率は非常によくなっているし、なんだかんだ言っても景気は上向いている。その恩沢を一番受けるのはやはり若い世代だから、彼らが安倍政権を支持するのは不思議ではない。一方我々老人たちは、先行あまり希望が持てない、その閉塞感が政治への無力感を生み出し、ひいては現政権への批判につながっているのではないか、そんなふうに思います。

静女史:また戦争の話になるけど、戦争になっていちばん影響を受けるのは若い人たちです、戦場に駆り出されるのは彼らですし、死ぬのも彼らです。その若い人たちが、安倍政権について好意的だというのは、わたしにはちょっとわからないところがあります。

俄然坊居士:しかしナショナリズムというのは、若い人たちを中心に盛り上がるというのが歴史の教訓です。日本の若い人たちも、そのナショナリズムの意義にやっと敏感になってきたということではないでしょうか。

静女史:そうとばかりとも言えないと思うわ。

無覚先生:議論がだいぶ白熱してきたようですね。お互い話は尽きないと思いますが、今日のところはこのへんでお開きにしましょう。壺齋さんには今日は発言の機会を設けませんでしたが、書記役として参加くださりありがとうございました。

壺齋散人:どういたしまして。

無覚先生:もし何かおっしゃりたいことがあればどうぞ。

壺齋散人:特にはありませんが、一言だけ言わして頂ければ、安倍さんはやはり老練な政治家だという印象を強く受けました。老練なだけでなく運もよい。恐らく老練さが運を招き寄せるのでしょう。






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