紅夢(大紅灯篭高高掛):張芸謀

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張芸謀は、中国映画第五世代の旗手として、中国映画を世界的なレベルに引き上げた功労者と言われる。「紅夢(原題"大紅灯篭高高掛")」は、1991年に公開され、彼の初期の代表作である。とはいっても、伝統的な意味の映画とはだいぶ異なっている。普通の映画らしい映画ではない。中国風バレエをスクリーン向けに編集しなおしたようなものだ。見ていても、バレエの舞台をそのままカメラに収めたといった体裁だ。バレエだから、音楽と踊りだけで、台詞はない。台詞がないから、物語性が希薄だ。観客は中国風にアレンジされたバレエ音楽に乗って繰り出される踊りの演技を披露されるわけである。

これには原作があって、その原作を読んでいないと、舞台で展開されていることの内容はよく理解できない。原作は「妻妾成群」という1920年代の中国を舞台にした小説だ。題名にあるとおり、正妻と複数の妾との確執を描いたものだ。この時代までの中国では、金持ちが多数の妾を抱えるのはあたりまえのことで、妾の間の愛憎が小説のたねにもなったわけだ。

映画では、原作では五人いる妻妾のうちの二人にクローズアップをあて、彼女らの愛憎を描いている。妾は主人とめったに床をともにすることがないから、性的な欲求不満に陥るのは致し方なく、それぞれが愛人を持っている。映画は一方で、妾と愛人との不倫を描くとともに、正妻と妾の対立とか、妾同士の争いとかを描く。バレエのことだから描き方は象徴的である。象徴的な中でも性的イメージを喚起させるシーンが多い。

中国女だから支那服を着ているのは自然なことだが、その支那服が実にエロティックなのである。服の横の割れ目が広がると大腿は無論腰まで見える。その腰のあたりは肉色のレオタードのようなもので覆われているので、これは彼女らが下着を着けていないことを暗示させる。実際この時代までの中国では、昔の日本と同様、女性はズロースを履いていなかったという。そんなこともあって、服の横にある割れ目と言うか裂け目は、歩くための配慮というより、男への性的な挑発が主な目的だったらしい。

原題の「大紅灯篭高高掛」は、中国風の赤い提灯を高々と掲げることを意味している。この提灯が、主人の意思に基づいて妾の部屋の前に掲げられると、その夜はその妾のもとに、主人が床を共にしに来るという合図なのだ。この赤い中国風提灯は、中国を旅行するとどこでも見られるが、これの使い方には多くのバリエーションがあるわけだ。

日本では、妾は別宅で囲うのが普通だったが、中国では広大な屋敷に正妻と妾とを同居させていたらしい。それ故、女たちの間で嫉妬と反目がはびこるのは自然なことだ。この映画はそうした女たちの中国風に自然な感情を描いているわけである。それもバレエという形をとることで、女たちの感情は象徴的な意味を帯びるようになる。そして彼女らは、最期には愛に狂って死んでしまうのである。






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