安倍総理が対中融和に舵を切ったわけ

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最近、安倍総理の対中融和姿勢が際立って見える。ベトナムのダナンで持った首脳会談では習近平に笑顔を振りまき、来年が日中国交40周年になることを理由に、習近平の訪日をみずから提案し、自分自身も訪中する意思があることを伝えた。これに対して習近平は、笑顔と握手で応じた。三年前の首脳会談の時とは大違いだ。あのときには、習近平は安倍の目を見ようともしなかった。露骨に安倍への不快感を示した。

三年前に安倍と習近平との仲がしっくりいかなかったのは、それなりの理由があった。当時の安倍は、二度目の政権を手にして以来、中国を仮想敵国と見なし、中国封じ込め政策を露骨に追求していた。そんな安倍を習近平が不快に思ったのは無理がない。そういう背景があるにもかかわらず、安倍はなぜ対中融和に急速に舵を切ったのか。

その背景を、雑誌「選択」の記事が分析し、それを英訳したものをジャパンタイムスが載せている(Stop pleading for Xi to visit Japan)。その記事によると、安倍は内政面で政権を浮揚させるような目玉政策が見当たらないので、外交面で点数を稼ぎたいということらしい。外交面では、最大の目玉であった対ロシア関係が頓挫して、北方領土問題の解決も暗礁に乗り上げている。そういう中で、北朝鮮問題を別にすれば、対中融和が外交での成果を強調できる最大の材料だと判断し、そちらの方向へ舵を切り替えたのではないかというのである。

安倍が対中関係に強硬だったのは、それを通じて自分のナショナリスティックな政策に強固な裏付けを得ようとする意図からだった。しかし、安保法制や共謀罪の成立など、念願の政策を実現できたいま、中国を仮想敵国として宣伝する必要は薄れてきている。そこで、いまこそ対中融和を演出する絶好のタイミングなのではないかと判断して、積極的なアプローチに踏み込んだのだろうとこの記事は分析している。

安倍の意図に、習近平が必ずしも大きな反感を抱いていないらしいことは、ダナンで彼が見せた表情からうかがわれる。日本のメディアはその表情を最大限誇張して見せて、いまや日中関係が改善される大きなチャンスだと、安倍の意向にそった宣伝をしている。しかし、習近平のほうでは、日本のメディアが騒ぐほど、安倍に対して親近感を覚えているわけではないということを、この記事は皮肉たっぷりに紹介している。

なぜそういうことになるのか。日本にとって中国はまだまだ利用価値のある大国だが、中国にとって日本はまずます重要性を失いつつある。中国はいまや、一帯一路政策を通じて、ヨーロッパや南アジア・アフリカと直接の関係を築きこうとつとめている。この構想は長い目で見れば、国際社会における中国のプレゼンスを高めるものである一方、日本がそれにコミットできないと、日本はますます国際情勢から取り残されてゆくリスクを背負う。つまり長い目で見れば、日中関係は、中国に有利な方向に進んでゆく可能性が高い。そういう事情を背景にして、安倍総理がなすべきことは、目先の政治的思惑からではなく、長期的な視点から日中関係のあるべき姿を考えることだと、記事は結んでいる。





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